日銀はもはやインフレを止めることはできない
もちろん、日銀は政策金利を引き上げなければ、債務超過になることはありません。しかし、その代償として、インフレを止める手段を失うことになります。
金融政策を運営する上で、日銀が当座預金の金利を引き上げられないということは、中央銀行の使命である「物価安定」を達成する最も強力な武器を放棄するということを意味します。当座預金の金利が低いままだと、仮に今後景気が好転して企業や個人の資金需要が高まった場合、民間銀行はろくに金利がつかない日銀の当座預金にお金を預けたままではもうからないため、当座預金からお金を引き出し、どんどん企業等への貸出に回して稼ごうとします。
そうなれば世の中全体の経済活動はさらに過熱し、インフレは一段と進行してしまうことになるでしょう。それを食い止めるのが、日銀が当座預金につける付利です。かつては金利がつかなかった日銀の当座預金に利子がつけられるようになり、その付利水準が、民間銀行が企業等に貸出を行う際につく金利水準並みにまで引き上げられれば、民間銀行は日銀当座預金にそのまま預け続けてくれます。
ところが、日銀が債務超過を恐れて当座預金の金利(付利)を上げられないと、当座預金からの資金流出を止めることができないので、その結果、当座預金に積み重なった約500兆円のマネーが、逆回転するように市中にどんどん流れ込み、火事に風を吹き込むようにインフレをあおります。インフレを抑えるはずの中央銀行が、インフレの悪化に手をこまねいて見ていることしかできなくなるのです。
今の日銀は、2%の物価目標達成と景気回復をめざしながら、実際にそれが起きてしまうと、対処しきれないという矛盾をはらんだ政策を実施しています。