黒田日銀が異次元緩和を止めるに止められない、もう一つの「本当の理由」とは?

黒田東彦日銀総裁が2013年に始めた「量的・質的金融緩和」(通称「異次元緩和」)は今年で10年の節目を迎えます。前例のない金融緩和により、日本経済はデフレから脱却しつつありますが、その副作用は無視できないレベルに達しています。日銀が国債を「爆買い」し続けた結果、日銀のバランスシートは肥大化し、わずか1%の金利引き上げが2年続くだけで債務超過に陥るような脆弱な財務体質になってしまいました。

中央銀行の金融政策や財政問題に精通したエコノミスト河村小百合氏(日本総合研究所調査部主席研究員)は「日銀は今や、我が国の先行きを大きく揺るがしかねない”リスクの塊”、"火の車"状態となりつつあります」と警告します。

我が国でも、消費者物価の前年比は、日銀が掲げてきた目標の前年比2%をあっさりと上回り、4%にまで上昇したにもかかわらず、日銀はあれこれと「理由」をつけて、今もなお「異次元緩和」政策を「死守」し続けています。河村氏はその「真の理由」は、黒田日銀が、日銀の財務悪化を先送りすることにあると分析します。そしてもうひとつの隠された理由が「放漫財政を継続できるようにすることにある」と見ています(現代新書編集部)。

財務次官が鳴らした警鐘

2021年の秋、当時財務事務次官だった矢野康治氏が『文藝春秋』に寄稿した『財務次官、モノ申す「このままでは国家財政は破綻する」』という寄稿文が話題を呼びました。かねてより日本の財政は世界最悪レベルにあることは広く知られていましたが、現役の財務次官による論文は過去に例がなく、財務省の危機感を強く印象づけるものでした。

あえて今の日本の状況を喩えれば、タイタニック号が氷山に向かって突進しているようなものです。氷山(債務)はすでに巨大なのに、この山をさらに大きくしながら航海を続けているのです。タイタニック号は衝突直前まで氷山の存在に気づきませんでしたが、日本は債務の山の存在にはずいぶん前から気づいています。ただ、霧に包まれているせいで、いつ目の前に現れるかがわからない。そのため衝突を回避しようとする緊張感が緩んでいるのです。

…(中略)…

先ほどのタイタニック号の喩えでいえば、衝突するまでの距離はわからないけれど、日本が氷山に向かって突進していることだけは確かなのです。この破滅的な衝突を避けるには、「不都合な真実」もきちんと直視し、先送りすることなく、最も賢明なやり方で対処していかねばなりません。そうしなければ、将来必ず、財政が破綻するか、大きな負担が国民にのしかかってきます。

現代新書から2023年3月14日に刊行される『日本銀行 我が国に迫る危機』(河村小百合氏)の装幀には、氷山に衝突して、まさに沈みかけているタイタニック号が描かれている絵画が使われています。 同書の中で、河村氏はこう綴っています。

「あくまで私の解釈ですが、矢野氏の文章にある「霧」は黒田日銀が展開してきた異次元緩和のことだと思います。矢野氏のこの寄稿からすでに1年余りが経過した今、国内外の経済・金融情勢は大きく変化することになり、日銀と我が国はその「霧」を待ったなしで晴らさざるを得ない状況に追い込まれているのです」