膨大な費用、時間、手間、果てしない心労…「法的紛争は避けるに越したことない」という結論に至った元裁判官が、その方法を教えます

あなたの日常にも潜む? 「法的紛争」の恐ろしさ

ごく普通の日本人にとって、訴訟や法的紛争は遠いものに感じられると思います。

確かに、訴訟の数自体は、欧米に比べれば少ないのです。制度が異なるので正確な比較は難しいのですが、人口比でみた民事訴訟件数は、アメリカでは日本の10倍以上、イギリス、ドイツ、フランスでも少なくとも数倍以上にはなりそうです。

しかし、訴訟は民事紛争解決の最終手段であり、いわば氷山の一角です。

水面下には、訴訟にまでは至らない膨大な数の法的紛争があり、それは、どの国でもいえることです。また、社会の複雑化、情報化に伴い、普通の市民が思いがけない法的紛争や生活・取引上の危険一般に遭遇する可能性も、非常に高くなってきています。

我が身を守る法律知識』は、そうした事態を踏まえ、普通の日本人が一生の間に経験する可能性のある各分野の法的紛争、また生活や取引上の危険を避けるために、あるいはそれらに適切に対処するために必要な、法的知識や情報を説くものです。

また、あわせて、学生や若者をも含めた広い範囲の読者に、個人の危機管理のために必要な法的リテラシーを身につけていただくことをも、目的としています。

そのため、記述に当たっては、前提となる基本的な法律論、私の裁判官経験に基づくエピソードや学者としての見解をも織り交ぜつつ、できる限りわかりやすく、正確に、かつ興味深く読めるようなかたちで、語ってゆきます。

本書を通じて「紛争や危険防止のための包括的、体系的な知識」のみならず「個人の危機管理のために必要なビジョンやパースペクティブ」をも習得していただければ、経済的、精神的に大きな負担となる多種多様な法的トラブル、ことに、訴訟に発展するような大きなトラブルを避けられ、また、日常生活上のリスクをも大幅に下げられるはずです。

負担が大きく時に理不尽な紛争

長く裁判官を務めた経験からつくづく思うのは、「法的紛争の重さと大変さ」ということです。

法的紛争は実に重く、しばしば苛酷です。そして、普通の市民が出あいうる生活・取引上の危険のほとんどが、本書で論じるとおり、法的紛争に発展しうるものなのです。

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先の例のAさんは、訴訟に負ければ、何千万円もかけて建てた自宅を取り壊して、義父の土地から出てゆかなければならず、加えて、使用貸借解除が認定された時点以降の賃料相当損害金をも支払わなければなりません。離婚に加えてのこのダメージは、回復不能なものになりかねません。

交通事故で夫を失った妻のかなりの割合が、貧困にあえぎ、子どもの高校進学すらままならない状況に置かれています。

刑事事件では、冤罪で、職業や社会的地位を含め築いてきたもののすべてを失う事態が、刑罰としては相対的に軽い痴漢罪のようなものについても、十分に起こりえます。

不動産売買・建築・貸借、離婚、相続、雇用、投資、医療、海外旅行等の日常生活上の事柄から思いがけない危険や紛争が生じることもままありますが、その被害の法的な回復は、決して容易ではありません。

また、法的紛争、ことにその最終到達点である訴訟は、それ自体の負担という面からみても、きわめて大きなものになりえます。