膨大な費用、時間、手間、果てしない心労…「法的紛争は避けるに越したことない」という結論に至った元裁判官が、その方法を教えます

法的紛争は「避けるに越したことはない」

法律や裁判制度は、民主主義社会の基盤であり、権利の侵害については、司法によるすみやかな救済が必要です。つまり、司法も裁判も、民主主義社会や私たちの市民生活の重要、不可欠な要素なのです。

しかし、一方、避けられる紛争や危険は避けるに越したことはないのも事実です。

訴訟を始めとする法的な紛争解決手段は、権利保護・実現のために必要なものですが、先にも述べたとおり、当事者、関係者にきわめて重い負担を課するものでもあるからです。

医療については、治療とともに、それに先んじる病気の予防が重要であるのは、理解しやすいでしょう。法的紛争とその救済についても、同様のことがいえます。その治療、つまり法的な解決とともに、それに先んじて紛争や危険を避けること、予防が重要なのです。

また、日本固有の事情としての、法的システム全体の弱さという問題もあります。

残念ながら、日本の裁判システムはなおさまざまな問題を抱えており、原告・被告とも、訴訟に対する満足度はあまり高くはなく、時間と費用を費やしても十分に納得できる結果が得られるとは限らないというのが実情です。

さらに、普通の市民の出あう法的紛争のうち小さなものについては、弁護士が扱ってもペイしない、金銭的に引き合わないものが多いことも、否定できません。そうした紛争に弁護士がかかわるには法律扶助制度の充実が必要なのですが、これについては、日本は、国際的にみても明らかに後れをとっており、第9章でふれる法テラス制度でようやく小さな一歩を踏み出したところというのが実情です。

日本の民事訴訟件数が相対的に少ない理由の一つは、このことにあります。 

『我が身を守る法律知識』の構成

法的紛争・危険を防止するためには、個別的、断片的な知識・情報も必要ですが、より重要なのは、それらの基盤になる法的なものの考え方や感覚を身につけることです。それが身についていさえすれば、個別・断片的な知識・情報を超えた範囲の事柄についても、おおむね適切に対処することができるからです。

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我が身を守る法律知識』では、まず、法的紛争防止のための法律知識を説く「予防法学」の必要性について解説した後、各法律分野、あるいは社会生活上の局面ごとに、順を追って、その分野、局面でどのようなことが問題になるかを説き、それについて考えるための基本的な法律論等をも交えながら、紛争を避けるために必要な実際的知識を網羅してゆきます。

それでは、イントロダクションはこのくらいにして、本論に入りましょう。

【本記事は『我が身を守る法律知識』の「まえがき」を抜粋・編集したものです。】