そもそも「地政学」とは何か? 地理的条件は世界をどう動かしてきたのか?
「そもそも」「なぜ」から根本的に問いなおし、激動世界のしくみを深く読み解く新たな入門書『戦争の地政学』が話題となっている。
現代人の必須教養「地政学」の二つの世界観を理解することで、17世紀ヨーロッパの国際情勢から第二次大戦前後の日本、冷戦、ロシア・ウクライナ戦争まで、約500年間に起きた戦争の「構造を視る力」をゼロから身につける――。
冷戦の終焉とその後の世界
冷戦の終焉は、英米系地政学の視点から言えば、シー・パワー連合の封じ込めが成功しすぎて、ランド・パワーの陣営が崩れていってしまった現象だということになる。
大陸系地政学から見ても、いずれにせよソ連/ロシアが自国を覇権国とする生存圏/勢力圏/広域圏のような圏域の管理に失敗して自壊したことによって生じた事態であった。

フランシス・フクヤマが洞察した「自由民主主義の勝利」である「歴史の終わり」としての冷戦の終焉は、シー・パワー連合の封じ込め政策が完全な勝利を収めてしまった状態のことを、理念面に着目した言い方で表現したものだったということになる。
これに対して、冷戦終焉後の世界においてもなお大陸系地政学の視点を対比させようとするならば、サミュエル・ハンチントンの「文明の衝突」の世界観に行きつくだろう。圏域を基盤にした世界的対立の構図は残存する、という主張である。
一方では、「自由民主主義の勝利」が、自由主義の思潮の普遍化や、自由貿易のグローバル化を背景にして、圏域に根差した思想の封じ込めを図る。この傾向は、冷戦終焉後に、ある面では強まった。
しかし、他方では、「歴史の終わり」としての「自由民主主義の勝利」の時代であればこそ、「文明」のような人間のアイデンティティの紐帯を強調する動きも生まれやすくなるかもしれない。
グローバル化と呼ばれる普遍主義の運動が強まれば強まるほど、それに反発する動きも顕著になるかもしれない。そこでシー・パワー連合のグローバル化に対抗し、圏域思想の側が「文明の衝突」を助長する。
冷戦終焉後の世界は、「自由民主主義の勝利」と「文明の衝突」が絡み合い、やがて二つの異なる地政学の対立にも引火していく構図の時代であった。