2023.03.13

【取材300日】ガーシーはなぜ国会に行かず、トルコ被災地に向かったのか《元朝日ドバイ支局長・集中連載》

悪党 潜入300日
ガーシーこと東谷義和(51歳)=敬称略=のインタビュー原稿をめぐる対応で朝日新聞の所属部署と衝突し、昨年8月末で朝日新聞社を退職した筆者・伊藤喜之は、その後もドバイに引き続き住み、取材を継続させてきた。

1年近くの取材の成果をまとめた『悪党 潜入300日 ドバイ・ガーシー一味』(講談社+α新書)が3月17日に発売される。本書でも触れられなかったエピソードも含め、マスコミでは報じられていない「ガーシー」の実像を伝えていく。《連載第2回》

ドバイから20時間「えらいほっこりしたなぁ」

帰国するのかしないのか──。国会欠席問題で「議場での陳謝」を求められていた参院議員のガーシーこと東谷義和が向かったのはトルコの地震被災地だった。

ドバイから飛行機と車を乗り継いで20時間以上。辿り着いたトルコ南東部のガジアンテップ近郊の避難民キャンプで、東谷が通訳を介して被災者から何が一番いま必要なのか、という聞き取りをしていた時だった。

7日、トルコ南東部のアディヤマンの被災者キャンプで支援物資を配る東谷

被災者は口を揃えて、不便なテント暮らしのためコンテナタイプの仮設住宅に早く移りたいなどと口にした。「食料は大丈夫なん?」。東谷がそう問いかけると、被災者の男性の一人はこう返した。

「食料などはもう十分届いているので大丈夫。あなたたちがこうして気にかけてくれるというのが一番嬉しいんだ。そうだ、食事をご馳走させてくれないか」

そう強く勧めてきたこともあり、野外に置かれた食卓に腰掛けて、チキンと炊き込みご飯の手料理を振る舞われることになった。この場面は、同行した日本のテレビ局などが食事を振る舞われて、笑顔で口にする東谷の様子を放映したため、SNSなどでは「被災者の食糧横取りしてタダ飯」「なぜ被災者にご馳走になるのか」といった多くの非難も相次いだが、少なくとも東谷にはそんな意図はなかったというのは伝えておこう。

3月6日、トルコ南東部ガジアンテップ近郊で被災者と交流する東谷

というのは、被災者との交流を終えて車に乗り込むと、東谷が高揚した様子でこうつぶやくのを私は聞いたからだ。

「ああなんか、えらいほっこりしたなぁ。みんななんか逞しく生きているよな。なんかこっちが心洗われるというか。こっちがご馳走になってもうたし。なあ良かったよな? なー、シュン」

  • 『成熟とともに限りある時を生きる』ドミニック・ローホー
  • 『世界で最初に飢えるのは日本』鈴木宣弘
  • 『志望校選びの参考書』矢野耕平
  • 『魚は数をかぞえられるか』バターワース
  • 『神々の復讐』中山茂大