トップスターのヒョンビンとソン・イェジンが主演を務めた韓国ドラマ『愛の不時着』。日本でも大ヒットし、最終的には、主演のふたりが実際に結婚するというアフターストーリーでも盛り上がったこの作品。
そんな『愛の不時着』にインスパイアされ、ドラマ愛あふれる新刊『僕の女を探しているんだ』を上梓した井上荒野さん。この著書には9篇の短編小説が収められ、そのすべての話にヒョンビンが演じた北朝鮮の軍人と同じ名の「リ・ジョンヒョク」という男性が登場する。井上さんは一体あのドラマの何に、そして彼のどこに惹かれて、ここまでの熱量を注ぎ込むことになったのか――。執筆にまつわる熱い思いを聞いた。
「リ・ジョンヒョクが登場する小説が読みたい」
ドラマ『愛の不時着』は、パラグライダーの事故で北朝鮮に不時着した韓国の女性実業家が、現地の軍人と恋に落ちる話だ。『僕の女を探しているんだ』は、『愛の不時着』そしてリ・ジョンヒョクへのオマージュとなる小説だが、井上さん自身、自分がこのような作品を書き上げたことにとても驚いているという。
まず熱量問題から言いますと、最初は他の方々と同じように『愛の不時着』にハマり、ハマったことをSNSなどでたびたびつぶやいていたんです。雑誌『AERA』で、同じく『愛の不時着』に夢中になっていた桐野夏生さんとドラマについて対談したりもしていました。
そうこうするうちに『小説新潮』で「うつくしいひと」という特集が組まれることになり、私が『愛の不時着』を好きなことを知っている編集者が「リ・ジョンヒョクが登場する小説が読みたい」と言ってくださって。「1回だけならできるかな?」と、単発での掲載をお引き受けしたのがきっかけでした。
掲載後、小説を読んだ方たちから「もっとこのシリーズを読みたい」と言っていただき、じゃあ連載でやりましょうという話に……。その連載をまとめたのが、今回出版した『僕の女を探しているんだ』です。私自身、こういうことをするタイプの人間だとは思っていなかったので、自分が一番ビックリしています(笑)。
ちなみに、1回きりのつもりで書いた最初の物語は、9篇のうちの最後に収められています。