ロシアの行動は明確に「違法」なのに、プーチン大統領が頑なに態度を変えない「当然の理由」

ロシア・ウクライナ戦争が1年以上にわたって続いている。

ロシアの行動の違法性は明白だが、プーチン大統領は引こうとはしない。その背景には、根深い世界観の対立がある。ロシアが信奉する世界観は、ウクライナを支援している諸国の世界観と異なっている。それはどういうことか。

話題の新刊『戦争の地政学』著者で国際政治学者の篠田英朗氏が解説する。

二つの異なる地政学理論/世界観

ロシア側の世界観は、ユーラシア大陸の中央部にロシアの「勢力圏」があるという思い込みに基づいた「圏域」思想によって特徴づけられる。これはいわば「大陸系地政学」理論によって説明されてきたような世界観だ。この世界観があるがゆえに、「勢力圏」の維持を至上命題とし、領土拡張主義的な政策をとりがちになる態度が生まれてくる。

これに対してNATO構成諸国をはじめとするウクライナ支援諸国は、主権国家の独立を尊重しながら、国家間の同盟も重視するネットワーク型の世界観を信じている。これは「英米系地政学」理論の伝統において追求されてきた。大陸における帝国主義的覇権国の領土拡張を封じ込める諸国の政策を支えている。

現代国際法秩序は、「勢力圏」を認めない。現代国際法と親和性が高いのは、後者の「英米系地政学」の世界観のほうである。だが前者の「大陸系地政学」理論の信奉者から見れば、それは現代国際法秩序が、「英米系地政学」理論の世界観の信奉者たちによって形成され、運営されてきたからだ。陰謀論とも重なり合い、世界観の違いは、根深い対立の構造を生み出す。

ロシアの侵略行為の違法性を糾弾することは、ロシアに世界観がないと主張することではない。ロシアを糾弾しながらも、ロシアが持つ世界観を認識し、戦争の背景にある世界観の対立の構造を把握する努力は必要だ。それは、国際法秩序の脅威を認識し、対抗手段を整備するためにも重要である。