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働く人たちも海の資源も守る「ノルウェーの水産業」の取り組み
2023.03.19

つくる人たちと、選びたいもの。

働く人たちも海の資源も守る「ノルウェーの水産業」の取り組み

世界の食を救う期待の星“分かち合う”漁業の形

オーレスンの町から出港するのは大型のサバ漁船。近代的な船をはじめ、働き方や待遇のよさで漁師は若い世代の憧れの職業に。人材育成の充実を図り、ノルウェーの水産業を持続可能なものにしている。

今回取材に訪れたのは、ノルウェーを代表する港町、西部に位置するオーレスン。町の規模こそ小さいが、国内屈指の漁場であり、港の周辺に加工業者や養殖業者が林立する。ここから日本をはじめ、世界中へ良質なシーフードが送り出されている。主要な輸出品のひとつであるサバは、新しい時代のサバ漁ともいえるスタイルが印象的だ。

「すべての船を監視できるオンラインシステムを導入し、リアルタイムで地図上でどの船がいるかわかるようになっています。誰もが可視化できるので密漁や乱獲も未然に防げるのです」

漁船のフィッシュポンプから数百トンのサバが直接加工場に送り込まれる。

漁は魚への負荷が少ない巻き網漁。網でサバの群れをとり囲み、網の底を引き上げ、漁獲する。それにより長い時間、網の中に放置されることを防げる。その後すぐに漁船内の大型タンクに引き上げられ、冷却された海水貯水タンクに保管。漁船は加工場に横付けされ、フィッシュポンプで一気に加工場へ。この方法によって、魚に必要以上のストレスを与えることなく、鮮度は保たれたまま送り込むことができる。

国がすべての漁船に対して毎年の割り当て量を決めているため、獲りすぎることなく、適正量が保たれる。仮に漁獲枠を超えた場合、その分の魚はオークションで売られる。売り上げは行政が徴収し、漁場の監視強化などに使用する。超過分の報酬は漁師には入らないという仕組み。ノルウェーの漁業が安定して発展しているのは、こうした先進的なシステムづくりはもちろんのこと、働くための環境がきちんと守られていることも大きい。最新の大型船に乗る漁師には個室が与えられ、船内はシェフ付きの食堂やカフェを完備。漁師の間に「たくさん獲った者こそ儲かる」という考えがなく、平等に安定した高収入が得られる。ノルウェーでは、漁師が若者の憧れの職業のトップだということにも合点がいく。

サーモンの海面養殖場。フィヨルドの冷たくて透明な海水が魚の養殖に最適な条件を作る。

一方、養殖産業もまた、サステナビリティを追求した管理体制が敷かれている。日本でも人気のアトランティックサーモンは、季節を問わない安定供給が魅力で、年間を通して海面養殖場もしくは陸上養殖場で育てられる。どのサーモンも産地、加工場所、輸出業者などの情報を追跡でき、トレーサビリティ専用の「パスポート」を付けて情報を管理することで品質や安全性が保証される。いけすは水97.5%、サーモン2.5%の割合というルールもあり、魚にとってストレスのない環境を整えている。

サーモンの陸上養殖場。最新のテクノロジーを駆使し、徹底した管理で品質と安全を確保する。管理者の業務の効率化も実現。日本で人気のサーモンはビタミンA、D、B12、B2、抗酸化成分、オメガ3脂肪酸を豊富に含む。

一般的に養殖サーモンは環境負荷が少ないといわれるのは、哺乳類ほどエネルギーを使う必要がなく、餌から摂取した分は成長するためだけに使われる。実際、1kgのサーモンを生産するのには、1.2kgの餌しか必要ない。養殖技術が進歩するにつれ、餌の量も過去30年間よりさらに減少していくと想定される。また、牛肉や豚肉よりも、同量のタンパク質を摂った際の摂取量に対する温室効果ガスの排出量が少なく済む、NSCにはそんなデータもある。環境にやさしいことはもちろん、今後増加する世界人口のタンパク質需要に長期的な貢献が見込まれているのだ。

世界に出荷するサーモンの加工場にて。養殖サーモンは環境負荷が少なく、品質もキープでき、主要なタンパク源となる。一年中手に入ることも魅力。

最先端のIT技術を駆使しながら、国を挙げて海洋マネジメントを徹底し、働く人たちを守りながら、海の資源も守るノルウェーの水産業。それがひいては、食糧問題、環境問題、健康問題など世界のあらゆる課題を解決に導く可能性を秘めている。翻って日本はどうか。天然魚の漁獲量が1980年代のピーク時に比べ、約70パーセントも減少している。近海から天然魚が減っているのは、気候変動による海水温度の上昇もあるが乱獲の影響も大きい。

養殖のオヒョウを使った試作の寿司。現在、日本市場開拓に向けて研究中。

ノルウェーの事例から今の日本が学べることもたくさんありそうだ。世界の漁業水産業界が切磋琢磨しあい、“分かち合う”漁業へと変換を遂げること。それによってノルウェー産のようなサステナブルシーフードが未来の食になることを期待したい。

●情報は、FRaU2023年1月号発売時点のものです。
Photo:Norwegian Seafood Council Photo & Text & Edit:Chizuru Atsuta

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