2023.03.15

アカデミー賞“異例の7冠”『エブ・エブ』はなぜ「社会現象化」したか? その「新しさ」の正体

アジア系女優として初の主演女優賞獲得となったミシェル・ヨーをはじめ、作品賞、監督賞など2023年のアカデミー賞を席巻した話題の映画『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』。

昨年の春に映画が公開されたアメリカでは、特にZ世代からの熱い支持を得ているという。

人種の壁を破っただけではない、その革新性と魅力はどこにあるのか?

世界と私のA to Z』の著者で、本作品の監督・ダニエルズのお二人にもインタビューした竹田ダニエルさんが、その多層的な魅力を徹底解説します!

(「群像」2023年4月号より転載)

エブエブがアメリカでは社会現象化

いまアメリカでは、Z世代の間で『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス(Everything Everywhere All at Once)』の革命が起きている。「世界で最も凄い映画」と評価する声が後を絶たず、『ミッドサマー』『ユーフォリア』『ヘレディタリー/継承』など数々のヒット作を輩出している配給会社「A24」史上最高ヒットとなり、全世界興収で1億ドルを突破した(日本では2023年3月3日公開予定)。

ハリウッドでは長年、アジア系が主役で、アジア系の人々の経験を描いた作品は「誰もそんなもの見たくない」と揶揄されてきた。アジア系のストーリーが描かれないということは、社会で彼らの「存在」が可視化されないということでもある。さらには、実力のある俳優であってもアジア系というだけで脚光を浴びる機会がそもそも得られない、そんな構造を継承することでもある。

主演女優賞を獲得したミシェル・ヨー〔PHOTO〕Gettyimages

そんな中で、『エブエブ』はほぼ口コミとリピート客で話題となり、「何がすごいのかよくわからないしネタバレのしようもないけど、とにかく見て欲しい」という熱烈なファンの声でここまで広がり、ゴールデン・グローブ賞やアカデミー賞でも数々の受賞やノミネーションを獲得している。

アジア系の俳優が世界レベルの映画界で活躍する道を作った最近の話題作『クレイジー・リッチ!』や『パラサイト 半地下の家族』、『ミナリ』などに続く「社会現象映画」だ。私自身にとっても大きな影響を受けた作品であると言っても過言ではないほど、その成功と高評価に納得がいく衝撃作だ。