アカデミー賞7冠『エブ・エブ』の「怒涛の感動」の正体…60代もZ世代も「まとめて癒す」不思議なパワー
アカデミー賞7部門を制覇し、SNSでは絶賛の嵐を呼んでいる映画 『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』。
ど派手なカンフーアクション、不条理なギャグとSF的な設定に、まずは圧倒されるのに、観終わった際には怒涛のような感動に包まれるのはなぜなのか?
この映画には、ブーマー世代とZ世代が理解しあうためのたくさんのヒントが詰まっているという『世界と私のA to Z』の著者のライター竹田ダニエルさんが、【前編】「アカデミー賞“異例の7冠”『エブ・エブ』はなぜ「社会現象化」したか? その「新しさ」の正体」に引き続き、本作を徹底解説します!
(「群像」2023年4月号より転載)
アジア人キャストたちの快挙
1月24日に、アカデミー賞ノミネート作品が発表された。『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』は10部門にノミネートされ、全作品の中で最高ノミネート数となった。(注:2月13日に開催されたアカデミー賞授賞式では、作品賞、監督賞、主演女優賞、助演男優賞、助演女優賞、脚本賞、編集賞の7部門を獲得)
立派な経歴のある大御所監督でもなく、ほぼアジア人キャストで構成され、ストーリーも演出も節々にDIY感が滲み出ているが、その親近感さえも多くの人の心を動かす要因になったのだ。
キャストはインタビューの機会を得るたびに「家族のようなチーム」「私たちにチャンスを与えてくれた監督に感謝」と発言しているが、劣悪な撮影環境や倫理的に問題のある俳優などハリウッドの現場が問題視されている中で、「自分にとっても大切なこのストーリーを届けたい」というモチベーションのもと、チーム一丸となって愛と熱意を持ち、アカデミー賞にとっては異例中の異例の作品が制作されたこと、それ自体が映画業界における大きな革命でもある。
『パラサイト』がアカデミー賞の4冠を達成し、全世界に衝撃を与えてから3年。『エブエブ』はそのレガシーを引き継ぎながら、一つの映画から4人が演技部門でノミネートされるという歴史的快挙を成し遂げた。