じつは「ティラノサウルス」が「異様に」多かった…! 地層を調べてわかった「恐竜大絶滅の少し前」の意外な様子
ティラノサウルスは最も研究されている恐竜ではありますが、まだまだわからないことが多いのが実際のところです。たとえば「ティラノサウルスには羽毛は生えていたのか?」という一般的な問いにさえ、まだ確定した問いはないのです。
一方で、ティラノサウルスの仲間は、北極に近いアラスカや日本にも生息していたことが分かっています。新たな発見があるたびに新しいことがわかり、そしてまた新たな謎が出てくるのがティラノサウルス研究なのです。
そんなティラノサウルス研究の最新事情を、『ティラノサウルス解体新書』(講談社ブルーバックス)から抜粋・再編集してお届けします。
なぜ恐竜図鑑の表紙はいつもティラノサウルスなのか?
以前、小学生を対象とするラジオの電話相談で、こんな質問を受けたことがありました。
「——なぜ恐竜図鑑の表紙は、いつもティラノサウルスばかりなんですか?」
いわれてみれば確かに、世界中で1000種類を超える恐竜が発見されているのに、書店にならぶ図鑑の表紙に起用されるのはティラノサウルスばかりです。私は思わず返答に窮してしまいましたが、実は答えはとても簡単。ティラノサウルスを表紙にしたほうが、図鑑はよく売れるのです。
では、ティラノサウルスはなぜこれほど人気があるのでしょうか? 個人的には、いつもティラノサウルスばかりではつまらないので、もっと渋い恐竜を表紙にしたいとの思いはあります。
そもそも私は、相撲なら白鵬よりも大徹(最高位小結。1990年に引退)、野球ならイチローよりもマイク・ディアズ(元ロッテの4番)を好みます。だから、時にはティラノサウルスではなく、私が命名したシノオルニトミムスを表紙に使ってくれてもいいのでは……などと密かに願っているのですが、これでは図鑑として地味なのは明白。ティラノサウルス頼りになるのも、いたしかたがないでしょう。
ティラノサウルスは恐竜の中でも断トツの知名度を誇っています。親子が集まる講演会などで、「みなさん、ティラノサウルスはご存知ですよね?」と問いかけてみれば、うなずかない人はまずいません。続けて、「じゃあ、トリケラトプスはどうですか?」、「ステゴサウルスは?」と向けてみると、やはり同じようにみなさんの顔が縦に動きます。

しかし、「ブラキオサウルスは?」、「ディプロドクスやアンキロサウルスはどうですか?」と言うと、かなり反応が怪しくなってきます。とくに大人たちは、先ほどまでとは打って変わって私と目を合わさないよう、目を伏せてしまいます。
そこで今度は、「では、ティラノサウルスの仲間で知っている恐竜を挙げてみてください」と聞いてみます。すると子どもたちから一斉に、「アルバートサウルス!」とか「タルボサウルス!」とか「ダスプレトサウルス!」などと、呪文のようにスラスラと名前が挙がるのです。やはり大きくて強いイメージがあるティラノサウルスは、子どもたちにとって恐竜のシンボル的存在なのでしょう。
しかし、そんな知名度に反して、ティラノサウルスについてはまだまだわからないことだらけ。今こうしている瞬間にも、世界中の学者や研究者が新たな論拠、新たな説を持ち寄って議論を続けています。