ついにJR東海の「大反撃」が始まった…リニア静岡工区着工で突かれた川勝知事の「大矛盾」

「水は一滴も県外に流出させない」

川勝平太知事が着工許可を認めないリニア南アルプストンネル静岡工区で、大井川最上流部の田代ダムの水を巡り、JR東海と静岡県との攻防が激化している。JR東海は、川勝知事の“大矛盾”を突くことでリニア計画を一歩前進できるかどうかの正念場を迎えた。

 

JR東海は2013年9月、リニア工事に伴う環境影響評価準備書で「トンネルによって大井川上流部の河川流量が毎秒2トン減少する」と予測した。そこで、毎秒2トンの湧水減少に対して、導水路トンネルを設置して約1.3トンを回復させ、残りの約0.7トンは必要に応じてポンプアップで戻す対策を発表した。

この方策に対して川勝知事は「毎秒2トンの全量を戻せ。流域約62万人の命の水を戻してもらう」などと強く反発した。

取水抑制案を検討する田代ダムを視察後の川勝知事の囲み取材(静岡市、筆者撮影)

このため、2018年10月にJR東海は「原則として全量戻す」として、毎秒2トンを上回る、トンネル内で発生する毎秒2.67トンの湧水全量を戻す方策を明らかにした。

JR東海の「全量戻し」解決策に対して、川勝知事は、トンネル工事後ではなく、静岡、山梨県境付近の「工事中に県外流出する湧水の全量」も含まれるという非常に困難な「全量戻し」を新たに持ち出した。

南アルプス断層帯が続く山梨県境付近の工事で、静岡県側から下り勾配で掘削すると突発湧水が発生した場合、水没の可能性が高く、作業員の安全性を踏まえ、山梨県側から上り勾配で掘削する工法を採用するとJR東海は説明してきた。約10ヵ月間の工事期間中に、全く対策を取らなければ、最大500万トンの湧水が山梨県へ流出すると推計した。

ただ、この500万トンは大井川流域の水問題との関係が薄い。県境付近の地下水は絶えず動いていて、さまざまな地下水脈がどのように流れているのかわからない。いずれ大井川や富士川の表流水となるのかさえ全くわからないのだ。

川勝知事は「工事中であってもトンネル湧水の全量戻しがJR東海との約束だ」「静岡県の水は一滴も県外に流出させない」「湧水全量戻しができなければ工事中止だ」などとJR東海に迫った。

もともと県境付近から山梨県へ流出する湧水は大井川の水環境とは関係ないのだが、国の有識者会議は、県外流出量する最大500万トンは微々たる値であり、大井川下流域の水環境への影響はないと科学的に結論づけた。

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