日本の「深刻すぎる少子化」のウラで、いまだに「本当の児童手当」が存在しない歴史的理由
「異次元」の少子化対策?
児童手当は、1971年5月に法律が制定され、翌1972年1月から段階的に支給が開始される(1974年完全実施)。当時、児童手当は「最後の社会保障」とされ、「小さく生んで大きく育てる」と言われた。しかし、その後児童手当はなかなか育たなかった。
ところが、今年(2023年)の年頭、岸田首相が児童手当を「異次元」の少子化対策の一つに位置づけたことから、児童手当の拡充が急きょ政策課題にあげられるようになった。昨年10月に、高所得者層の「特例給付」(月5,000円)を廃止したばかりだというのに、いったいどういうことなのだろうか。

それは、少子化の想定以上の深刻化によるという他ないだろう。「1.57ショック」と言われた1989年の出生数は125万人。以後、児童手当は少子化対策の一環に組み込まれ、2000年代に入ると、20年ぶりに支給総額が増加する。だが、少子化対策は児童手当の拡充に、一貫して消極的だった。
ところが、2021年の年間出生数は81万人。2022年は80万人を下回る。これまでの少子化対策はいっこうに効果がなく、いよいよ危機的状況になる中で、政府は児童手当の思い切った拡充に向け、ようやく重い腰をあげたのだろう。
しかし、児童手当がどれだけ拡充されるかはわからない。児童手当は常に少子化対策としての有効性が問われ、保育サービスや貧困対策を優先すべきだと言われ、結果、所得制限により対象が限定され、支給金額が抑えられてきたからである。
そのため、日本にはいまだにすべての子どもを対象としたユニバーサルな家族手当は存在しない。例外は民主党政権下の「子ども手当」だが(2010年4月〜2012年3月、中学校卒業まで13,000円支給)、子ども手当に対しては、当時野党だった自民党だけでなく、世論もマスコミもこぞって反対した。
その背景には財政問題があるが、それだけではない。なにしろ日本社会は、すべての子どもの育成を社会が支える社会保障給付を「バラマキ」と称する社会である。ユニバーサルな家族手当は一貫して否定的に捉えられてきた。それはなぜなか。なぜ今も所得制限の撤廃に反対意見が多いのか。児童手当の受難の歴史を振り返りつつ、その意味について考えてみたい(児童手当の歴史について、詳しくは、以下の拙稿参照。「戦後の家族政策と子どもの養育―児童手当と子ども手当をめぐって」『実践女子大学人間社会学部紀要』第8集、2012)。