2023.03.29

静かに進行する地方国立大学の世界大学ランキングにおける凋落 基盤を崩し、競争を絶対視する政策の問題点

「日本の大学がトップ10にない」「トップ100以内に少ない」ことばかり取り沙汰される世界大学ランキングだが、実は500位以内およびその近傍にまで視野を広げると、日本は2010年時点ではランクイン数で米英独に次ぐ世界第4位を誇っていた。ところが2022年には国別で8位まで後退し、中国に抜かれ、韓国と同順位になっている。

「日本の大学システムは『頂点の高さ』ではなく『層の厚み』が特徴であり良さだったが、これが今や失われつつある」――『国立大学システム 機能と財政』(東信堂)を著した島一則・東北大学大学院・教育学研究科教授の見解だ。旧帝大などとの大学間格差が広がる、地方国立大学の教育・研究環境の悪化とその原因について島氏に訊いた。

現在の国立大学への予算配分は、全体の食糧給付を減らして一部に栄養ドリンクを配るようなもの

――現在の地方国立大学の教育・研究の窮状から教えてください。

 これからお話することは、本に書いた研究内容に加えて、私がその後に行った聞き取り調査および私自身の国立大学教員としての経験に基づいていることをあらかじめお断りしておきます。

まず現場のレベルの実感として常勤教員数が減少しています。これは国が拠出する、大学運営の基盤的な資金である「運営費交付金」が2004年の国立大学法人化以降、毎年1%削減され続けてきたためです(正確には拙著をご参照ください)。これによってたとえば後任の不補充が起こっています。定年退職した先生がいても、予算削減の「バッファ」として後任をうめられない、そしてその代わりは非常勤、任期付きで埋める、しかし、やがてはそれすらも困難になる、そうしたことが起きています。

図書館も新刊図書の購入が困難化し、最新の研究論文を掲載する学術誌の購読が徐々に削減されている。

結果、学生が置かれる知的な教育環境が徐々に魅力の乏しいものとなり、専門的な知見に基づく卒論や修論、博論の指導に悪影響を与えるなどのことも考えられます。また、場合によっては法学部の「民法」のような基本的な科目すら講義を担当できる教員の補充が困難化し、授業科目の確保そのものが危うくなるといったケースも聴き取りで確認されました。

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政府は、運営費交付金を減らした分の一部を「競争的資金」「評価に基づく資金」として再配分していますし、大学病院収入や委託事業収入増などもあり、国全体として見れば国立大学の収入は増えているのだ、と主張しているのですが、たとえば競争的研究費の代表格である科研費(科学研究費助成事業)の採択率は3割弱です。逆に言うと7割のプロジェクトは十分な研究資金が得られない。そうなると、地方国立大学などでは、年間10万円しか研究費がない(理系分野においてすら)といったこともヒアリングで明らかになりました。

法人化後現在までの資金配分のしくみは、私には「元気な人間が100人いるなかで、全体的に配付する食糧の量を減らして栄養状態を悪化させ、代わりに一部の人にだけ追加で栄養ドリンクを配る」ようなものに見えます。それで果たして全体のパフォーマンスが上がるでしょうか?長期的な成長は可能でしょうか?

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