中国の仲介でイラン・サウジ関係改善、世界は米国抜きで回り始めた

重要なのは今度も「中東の原油」だ

中国が米国を出し抜いた

ロイター3月10日「イランとサウジ、外交関係再開で合意 中国が仲介」と報道された。

3月10日、サウジアラビア・イラン関係修復  by Gettyimages

2016年1月にスンニ派が大多数のサウジアラビアにおいて、イスラム教シーア派の指導者ニムル師が処刑された。そのためシーア派が主流のイラン・テヘランのサウジアラビア大使館が襲撃され、両国は外交関係を断絶。

また、サウジアラビアとイランはお互いに相手を、中東覇権を目指す脅威とみなし、レバノンやシリア、イラク、イエメンなど中東各国で対立する勢力をそれぞれ応援してきたとされる。

例えば、イエメンでは、反政府勢力のフーシ派が2014年に首都サヌアで、サウジアラビアが後押しする政府の施設を一時占拠したが、イランはフーシ派を支持。その後、2015年からの内戦でフーシ派が政権掌握を宣言したため、サウジアラビアなどのスンニ派連合軍は彼らを空爆した。

逆に2019年にはサウジアラビアの複数の石油施設がミサイルやドローンの攻撃を受け、同国の石油製造に大きな影響を与えた。サウジアラビアと米国はイランを非難したが、イラン側は関与を否定していた。

イランは中東で最も多い約8500万人の人口を抱え、クウェート(7位)アラブ首長国連邦(8位)を上回る世界第4位の原油埋蔵量を誇る(生産量は世界第7位)。なお、エジプトの人口は1億人を超えるが、中東と北東アフリカの接点に存在する。

また、サウジアラビアの人口は3500万人だが、世界第2位の原油埋蔵量を有する(生産量ではロシアに次ぐ世界第3位)。さらに、サウジアラビアの国営石油会社であるサウジアラムコの2022年の通期純利益は21兆円を超えた。トヨタ自動車の2022年3月期の「売上高」は約31兆円だが、純利益は約2兆8000億円とサウジアラムコの13%程度にしかすぎない。

この両国が手を結ぶことによって、世界における中東のプレゼンスが高まるだけではない。注目すべきは「中国が仲介」という点である。記事によれば、この合意に「(サウジアラビアから報告は受けていたが)米国は関与していない」とのことだ。実際、これらの3国のいずれとも米国は「(本当の意味の)友好関係」を持たず、むしろ「敵対」している。

 

湾岸戦争の際に、サウジアラビアに米軍が駐留した事から、サウジアラビアと米国は友好関係にあると思われるかもしれない。しかし、「サウジアラビア記者殺害事件」の取り扱いや、米国バイデン政権の「脱炭素推進なのに原油価格引き下げ要望」などから少なくとも現在はそうではないといえる。

むしろ、9.11テロの首謀者とされるビン・ラディンだけではない。イスラムの聖地であるメッカが存在するサウジアラビアに、湾岸戦争の際に、十字(虐殺)軍で中東の人々を蹂躙したキリスト教国の軍隊が駐留したことを「屈辱」だと感じる人々は少なくない。

したがって、米国抜きで「非キリスト教国」である中国の仲介によって成し遂げられた合意が日本経済新聞3月11日「イランとサウジアラビアが正常化、アラブ諸国は歓迎」という反応を引き起こしたのも当然と言える。

関連記事