「ChatGPT」開発元が集団訴訟の標的に…「生成AI」はメディアやクリエイターの権利を侵害しているのか?

小林 雅一 プロフィール

昨年11月末のリリースから世界的なブームを巻き起こしているChatGPT。その基盤技術をマイクロソフトが検索エンジン「Bing」に応用するなど、ビジネスや産業界への導入も進み始めている。

しかし、その前に、いや恐らくはそれと並行してクリアしなければならない重大な課題がある。それは、ChatGPTのような生成AI(人工知能)の機械学習に使われる、テキスト(文章)や画像、コンピュータ・プログラムなど各種コンテンツの利用許諾や著作権に関する問題だ。

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米国の主要メディアがOpenAIに抗議

今年2月、米国の主要経済紙ウォーストリート・ジャーナルを発行するダウジョーンズ(米ニューズコープ傘下)が、ChatGPTの開発元である米OpenAIが正当な対価を支払うことなくウォールストリートジャーナルの記事を利用している、と抗議した。

同社は「ウォールストリート・ジャーナルの記事をAIのトレーニング(機械学習)に利用したいと考える者は誰でも、そのための正当なライセンス(使用許諾権)をダウジョーンズから取得しなければならない」とする公式コメントを出した。

一般にChatGPTのような生成AIはウェブ上からテキストや画像をはじめ様々なコンテンツを大量に収集して、これらから「機械学習」と呼ばれる手法で学ぶことによって、まるで人間が書いたかのような自然な文章を書いたり、玄人はだしの絵画やイラストなどの画像を描き出したりすることができる。

ところが、こうした生成AIの機械学習に使われるコンテンツ(一般に「教師用データ」あるいは「学習用データ」などと呼ばれる)は無断で、つまり著作権者からの利用許諾を得ることなく勝手に収集されて使われている。ダウジョーンズはまさにこれを理由にOpenAIを非難しているのだ。

 

米ブルームバーグ・ニュースの報道によれば、ダウジョーンズがOpenAIに抗議することになった直接のきっかけはある告発であったという。

ジャーナリストのフランセスコ・マルコーニ氏がChatGPTに「貴方が自分のトレーニング(機械学習)に使っているニュース・ソースは何ですか?」と尋ねたところ、ChatGPTは前述のウォールストリート・ジャーナルやニューヨーク・タイムズ、CNNをはじめ計20の主要メディアを列挙したリストを表示した。

このリストをマルコーニ氏が自らのツィッターで紹介して告発したところ、それがダウジョーンズ関係者の目にとまり、前述の抗議声明へとつながったようだ。

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もっともChatGPTはユーザーからの質問に対し、しばしば誤った情報を返したり、口から出まかせの嘘をついたりすることで知られるが、今回のように自らを不利な状況に追い込むために敢えて嘘をつく理由はない。

つまりChatGPTが実際に、それら主要20メディアの記事などを自らの機械学習のために利用している可能性は十分ある。

このため(米ワーナー・ブラザース・ディスカバリー傘下の)ケーブル放送局CNNも、ChatGPTが同社のコンテンツを(機械学習用に)無断で使っている、と抗議している。同じくブルームバーグ・ニュースによれば、CNNはOpenAIに対しライセンス料(コンテンツ使用料)の支払いを求めて交渉する計画であるという。

ただ、昨今、米国のビッグテックが勢いを失い、IT関連のトピックも乏しくなる中、突如彗星のように現れたChatGPTの報道によって、CNNやウォーストリート・ジャーナルなど主要メディアは相当高い視聴率やページビューを記録したはずだ。

それによって多額のお金を儲けたと思われるが、その功労者であるOpenAIに対して、さらにお金を請求するとなれば、大人気ないと言われても仕方がないだろう。

もっとも、これは、本来そういう問題ではない。主要メディアはOpenAIに対し「自分たちのコンテンツをAIの機械学習に使いたいなら、その著作権料を支払うべきだ」と主張したいのだろう。

従来の常識から考えて、ChatGPTが出力する何らかのテキストがオリジナル作品のコピーでない限り著作権侵害には当たらないはずだが、「機械学習の教材」というケースは過去に前例がないだけに、主要メディアとしては「とりあえず自分たちの権利を主張してみよう」というところかもしれない。

しかし、ChatGPTのようなAIに自分たちのコンテンツを勝手に使われた挙句、本来なら検索エンジンから自身のサイトへと流れ込むはずのトラフィック(ページ・ビュー)や可処分時間も奪われる可能性があるので、実は新聞社などメディアにとって死活問題なのである(これはメディアに限った話ではないが)。いずれはAIで動画も生成可能となるので、ハリウッドのような映画産業やテレビ局等も同様に神経を尖らせてくるだろう。

 

ダウジョーンズ関係者やCNN等の発言に対し、OpenAIはこれまでのところ公式のコメントを出していないが、素直に相手の要求に従って権利料を支払うようなことはまずあるまい。となると今後、主要メディアとOpenAIとの法廷闘争につながる可能性も無きにしも非ずだろう。

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