野生のゾウがやってくる宿泊施設
ライオン、キリン、ヒョウ、チーター、カバ、インパラなど、多くの野生動物や鳥類が生息するザンビア。世界遺産にもなった「ビクトリアの滝」や、世界第2位の広さを持つ「カフエ国立公園」など、観光資源には事欠かない。
そのザンビアに、触れるほどの近さでゾウを見られるロッジがあるという。
そんな話をしてくれたのは、旅とホテルをテーマにノンフィクション、小説、紀行、エッセイ、評論など幅広い分野で執筆する作家山口由美さんである。
山口さんは33年前にザンビアで体験した「エコツーリズム」の原点を探りに、昨年の11月中旬から12月初旬にかけてザンビアに再訪した。
そこでムフウェロッヂの「Elephants in Reception」の話を聞いた。人が引いているわけでなく、柵で仕切るわけでもない。ゾウが自分の意志でやってくるという。
たしかにムフウェロッヂのある南ルワングア国立公園は有名なゾウの生息地だ。だが、人間のいるロッヂのレセプションを通り、中庭までゾウがやってくる目的は何だろう。
実際にロッヂに宿泊し、ゾウに遭遇したという山口由美さんに執筆いただいた。
ロッヂにやってくるゾウのお目当ては
「パオーン」
静かにマンゴを食べていたゾウが突然、目の前で大きな声を発した。
一瞬ドキッとしたが、母親ゾウが子ゾウに早く行けと急かしているらしいと気づいて、安堵した。彼らを取り囲む人間に怒っている訳ではなさそうだ。

10月下旬から12月上旬にかけてのマンゴの季節、南ルワングア国立公園のムフウェロッヂでは、中庭の木に実るマンゴを目当てにゾウがやってくる。
中庭へのアクセスはロッヂのレセプションを通らなければならない。敷地に柵や塀はないから、ゾウも同じルートを通る。ゲームドライブの車上からでもなく、柵もない状態で、間近でゾウに出会える。
ムフウェロッヂはこの体験を「Elephants in Reception」と呼んでいる。
ドキドキする自然のスペクタクル。これを目当てに泊まるゲストも多い。私がムフウェロッヂを選んだ理由も、目の前で野生のゾウに会いたかったからだ。

私がザンビアを再訪した11月は、乾季が終わり雨季が始まる時期だった。サファリのベストシーズンは乾季だから、観光には今ひとつの季節なのだが、果物やキノコが実る収獲の季節だった。
水の豊かなザンビアは、農業が盛んな国でもある。野菜が美味しく、周辺国に輸出もしている。
11月のザンビアを象徴する産物が、世界最大の食用キノコ、チウグルウグル(Chi-Ugulu Ugulu)とマンゴなのである。


11月中旬、例年より少し遅く、シーズン最初のゾウがロッヂやって来たのは、滞在2日目の昼下がりだった。
ゾウが来たと聞いて慌てて駆けつけたが、レセプションを通る瞬間は、残念ながら見逃してしまった。だが、ちょうど親子連れのゾウがしずしずと中庭に入ってくるところに間に合った。
私はスタッフの指示に従い、適切な距離をとりながらゾウにカメラを向けた。
南ルワングア国立公園には、さまざまな野生動物が生息するが、とりわけゾウは数が多い。ゲームドライブでも、ゾウの群れに何度も遭遇した。まさにゾウの楽園だ。
