“老老介護”“ヤングケアラー”などのニュースが連日のように報じられ、今の日本が直面している重要な社会問題である、介護。松山ケンイチさんと長澤まさみさんが初共演することでも話題の社会派エンターテインメント作品『ロストケア』(3月24日全国公開)では、介護の当事者が社会から孤立し、追い詰められていく様子がとてもリアルに描かれている。監督をつとめたのは『こんな夜更けにバナナかよ』で筋ジストロフィーのノンフィクションを見事に映像化した前田哲監督だ。
脇を固めるのは、鈴鹿央士さん、坂井真紀さん、戸田菜穂さん、藤田弓子さん、柄本明さんら実力派俳優。検事の大友秀美(長澤まさみ)を支える検事事務次官という重要な役どころを担う鈴鹿央士さんに、介護や作品について話を聞いた。

2000年1月11日生まれ。岡山県出身。映画『先生!、、、好きになってもいいですか?』(2017)にエキストラ参加したことがきっかけでスカウトされ、芸能事務所に所属。2018年「第33 回 MEN’S NON-NO専属モデルオーディション」にてグランプリを獲得る。映画初出演作品の『蜜蜂と遠雷』(2019)では第44回報知映画賞を始め、数々の映画新人賞を受賞。以降、ドラマ『MIU404』(2020)『ドラゴン桜』『クロステイル~探偵教室』(2021)『silent』(2022)映画『ホリミヤ』、『かそけきサンカヨウ』(2021)、『夏へのトンネル、さよならの出口』(2022)など主演ドラマも含め多数出演している。
「祖母が曽祖母を介護しているのを見ていました」
日本では65歳以上の高齢者が人口の3割近くを占め、介護を巡る事件は後を経たない。最近でも、2022年1月、同居する90歳の母親を殺害したとして、66歳の娘が懲役3年6月を言い渡された相模原市の介護殺人事件があった。被告は介護負担の増大や不眠状態が続き、重度のストレス反応と適応障害を発症。将来を悲観して犯行に至ったと認定されている。
同年5月には、広島県竹原市の自宅で85歳の夫の首を絞めて殺害したとされる78歳の妻の“老老介護殺人”も報じられた。介護を巡る似たような事件は連日のように報道されており、「自分ごと思わなくては」と感じる一方で、「なるべく目を背けていたい」と見て見ぬふりをしている人は、全国に大勢いることだろう。
『ロストケア』は、家族からの信頼が厚い「人望のある介護士」が、実は世話してきた認知症の老人42人を殺害していたというストーリーだ。訪問介護センターで働く斯波宗典(松山ケンイチ)は、介護家族に慕われる献身的な介護士。検事の大友秀美(長澤まさみ)は、検事事務次官の椎名とともに、斯波が務めるその訪問介護センターが世話をしている老人の死亡率が異常に高く、斯波が働き始めてからの死者が40人を超えることを突き止める。真実を明らかにするため、斯波と対峙する大友。すると斯波は、自分がしたことは“殺人”ではなく“救い”だと主張する――。

23歳とまだ若い鈴鹿さんだが、介護というテーマについてはどのような印象を持っていたのだろうか。
「僕の祖母が、曽祖母を介護しているのをずっと見ていました。自分が主として介護するというわけではありませんでしたが、介護自体は身近にありましたね。大変そうだなとは思っていたけれど、祖母の家に遊びに行った帰りにみんなで老人ホームに寄って、「誰々が来たよ〜」と、曽祖母の部屋がほがらかな空気になったり。そんな家族の時間というのもあったので、介護=苦しい、辛いというイメージもあったんですけど、僕の中ではどちらかというとあたたかいもの、というイメージでした」