2019年に初出演した映画『蜜蜂と遠雷』では養蜂場でピアノの才能を見初められた天才・風間塵、『MIU404』では部活を廃部にされたことを機に違法ドラッグの世界に巻き込まれる高校生・成川、『ドラゴン桜』では人と支え合うことを知らずにいながら、東大を仲間と目指すことで変わっていく秀才・藤井、『silent』では高校時代から思いを寄せる女性と、その元彼との間で揺れる湊斗……。鈴鹿央士さんは、デビュー直後から、様々な名作で「役になりきる存在感」を示してきた。

そんな鈴鹿さんが「介護」のリアルを伝える映画に出演している。タイトルは『ロストケア』(3月24日全国公開)。『こんな夜更けにバナナかよ』『そしてバトンは渡された』などを手がけた前田哲監督が、日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞した葉真中顕さんのデビュー作を映画化した作品だ。
松山ケンイチさんが、人望の厚い介護士でありながら、実は42人の殺人を犯していたという斯波宗典を演じ、長澤まさみさんがその真実を追求する検事・大友秀美を演じる。鈴鹿さんは大友検事を補佐する検察事務官・椎名幸太だ。

鈴鹿さんが演じている検察事務官・椎名 (c)2023「ロストケア」製作委員会 

鈴鹿さんにインタビューをした前編「鈴鹿央士が語る介護「祖母が曽祖母の世話。介護は身近な存在でした」」では、映画のテーマである介護について詳しく伺った。後編では、見事な演技が常に話題となる鈴鹿さんの仕事への思いを伺っていく。

 

「いい人」にならないと「いい俳優」につながらない

以前、あるインタビューで、将来の夢を聞かれた鈴鹿さんは、このように答えていた。

「いい俳優になる」
「いい大人になる」

鈴鹿さんの考える、「いい俳優」、そして「いい大人」とは、どのようなイメージなのだろうか。

「僕が今までに出会ってきた先輩たち――長澤まさみさんや松山ケンイチさんもそうですし、綾野剛さんとか菅田将暉さん、満島真之介さん、松岡茉優さんなど、本当に素敵な先輩たちと出会ってきましたが、誰ひとりとして似ているという人がいなくて。ひとりの人間として、そして俳優さんとしても、皆さん自分が立っているというか、重なっていないというか。僕が出会ってきた先輩方はそういう方々で。皆さん優しいですし、作品に対する思いとか、現場での立ち居振る舞いとか、見ていて毎回勉強になります。

人として、まず『いい人』にならないと、いい俳優にはつながらないのかなと思いますし。その先輩方の「素敵だな」と思うところをちょっとずつ吸収していって、自分なりの『いい大人』になれればいいかなというイメージです」

撮影/山本倫子

さらに、「相手のことをよく見ること」と、「想像力」も欠かせないという。

「『ロストケア』で長澤さんとふたりのシーンを撮っている時に、前田監督から『ちゃんと見て』って言われたんです。そういうことを言われたのは初めてで。『クロステイル~探偵教室』というドラマと同時進行でこの作品を撮っていたんですけど、テンポ感とかを重視していた『クロステイル』と『ロストケア』は、けっこう離れた作風でもあって。『お芝居ってどんな感じだったっけ』と思っていた頃に、前田監督からそう言われたんです。

『ちゃんと見る』というのは相手が何を伝えようとしているのか、何を思っているのかを感じるということ。そのためにも想像力がより大事だなと思うようになりました。『出そう、出そう』というアウトプットも重要だけど、何を受け取るとか、どれくらい受け取れるかということも大事なので、すごくいい言葉をいただけたなと思っています」

(c)2023「ロストケア」製作委員会