同じ人物とは思えない、美しさに満ちたこの記事トップ画像の写真2枚。こちらは3月23日発売のフラウ5月号の特別付録の一部。ほか合計4枚のポストカードを特別付録に、同号の表紙も飾る市川染五郎さん。今回は、その撮影現場での知られざるストーリーをご紹介。
自ら衣装を手に、スタジオに現れる
1月のある日のことだ。FRaU5月号 JAXURY特集号の表紙と編集企画撮影のために、フォトグラファー、編集、スタイリスト、ヘアメイクなど大勢のスタッフが、都心にあるフォトスタジオで八代目・市川染五郎さんの到着を待っていた。
「おはようございます」
あらかじめ到着すると予定されていた時間に、なんともさり気なく、染五郎さんは現れた。その両腕には、撮影で使用するためのお持ちいただいた着物を抱えている。旧知のヘアメイクさんに導かれ、一直線にメイクルームへと向かっていく横顔には、少年のあどけなさが感じられた。それが、鏡の前に座り、撮影の準備が整う中で、次第にただならぬ妖気が溢れ出す。
すべての支度を終えて、メイクルームから現れたときは、着物を抱えて入ってきたさっきの少年とは別人のように見えた。それは、メイクや装いが変わったからだけではない。目つきや物腰がまるで違う。“職人”のスイッチが入った瞬間だった。
17歳から18歳への変わり目の時間を
紋付き袴に着替えてからは、動きのある場面を撮りたいというフォトグラファーからのリクエストに、真剣に踊る、跳ぶ。「もう一回お願いします」と言われれば、「はい」と返事をして何度でも。踊りという流れの中の、決定的一瞬を切り取ろうとするフォトグラファーと対峙する姿は、フォトセッションというより、侍同士が剣を交えているかのようなキリリとした緊迫感があった。
彼の中には、様々な相反するものが混ざり合っていた。少年と青年。未熟と成熟。クラシックとアバンギャルド。大胆と繊細。永遠と一瞬。鮮烈と陰影。それらが一瞬のうちに移ろいゆく。だから、その一挙手一投足から目が離せない。本日公開されたFRaU 5月号JAXURY特集号の表紙には、その相反する要素の全てが詰まっているように見える。

八代目・市川染五郎――。彼は、3月27日で18歳を迎える。FRaU 5月号JAXURY特集号で切り取られたのは、17歳の儚すぎる美そのもの。桜の花のような「儚さの美」をぜひこのJAXURY(ジャクシュアリー)=Japan’s Authentic Luxury特集号で堪能してほしい。そして、八代目・市川染五郎という日本の伝統芸能を受け継ぎ、発展させる覚悟を持った若者と、同じ時代を生きる喜び。その変容を見届けられる喜びを――。
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PROFILE
2005年3月27日東京都生まれ。2007年歌舞伎座『狭客春雨傘』で初お目見え。2009年歌舞伎座『門出祝寿連獅子』で四代目松本金太郎を名乗り初舞台を踏む。2018年1月歌舞伎座『勧進帳』源義経役他で八代目市川染五郎を襲名。大河ドラマ「鎌倉殿の13人」では木曽義高を、映画「THE LEGEND & BUTTERFLY」では森蘭丸を演じた。3月23日から日本橋高島屋に於いて「松本幸四郎家 高麗屋展」を開催。4月には歌舞伎座「鳳凰祭四月大歌舞伎」昼の部『新・陰陽師』に源博雅役で出演。
構成/菊地陽子 撮影/渞忠之