
「なぜ宇宙には物質が存在しているのか?」実は現代の物理学でも説明できない究極の謎だった…素粒子実験の第一人者が語る「ニュートリノがなければ人類も誕生できなかった」という不思議

ニュートリノが「人類の誕生には不可欠だった」
―「物質と反物質の違い」は見えてきていますか?
差が微妙にあったんです。実験データを蓄積して2017年には、ニュートリノにおいて95%の確からしさで「物質と反物質の違いがあること」を示せました。でもまだ単なる偶然なのかもしれない。
私は精度99%ぐらいまで示せればいいなと思っています。まず「T2K実験」で2026年ぐらいまでデータをためて、どこまで精度を高められるか頑張っていくところです。現在、スーパーカミオカンデをさらにパワーアップさせた「ハイパーカミオカンデ」を建設中で、2027年から稼働開始を予定しています。ハイパーカミオカンデになると、スーパーカミオカンデの100年分のデータを10年で観測できる計算なので、期待しています。

―ニュートリノ研究にとってはどんな20年でしたか?
私がポスドク研究員になったのが2001年で20年ほど前です。実はその直前の2000年頃に「大気ニュートリノ」(※2)の観測と、「太陽ニュートリノ」(※3)の観測から「ニュートリノ振動」はもう確実だと言われていたんですよね。そこからT2K実験も含めて研究が着実に進んで、ついに、物質と反物質の違いの証明に手が届くところに来ています。この流れに立ち会えたことは非常に幸運だったと思っています。
これまで、素粒子クォークでは物質と反物質の違いが示され、小林誠さんと益川敏英さんが2008年にノーベル物理学賞を受賞しました。でも、クォークだけでは現在の宇宙を成り立たせる物質の量を説明できないので、ニュートリノでも両者に違いがあるのではないかと考えられているんです。
この世界はすごく不思議なんですよね。ちゃんと星ができて、40億年ぐらいかけないと多分人間ってここまで進化できないんです。でも40億年ぐらい星を安定にしようと思うと、ニュートリノの存在が不可欠なんですよ。ニュートリノがあるおかげでこの世界ができている、人間もここまで来たって思うとすごいなと思います。ニュートリノに感謝するべきですね。
(※2)大気ニュートリノ:宇宙空間から飛んできた「宇宙線」が原因となって生み出されるニュートリノ。宇宙線が地球の大気の分子にぶつかると、「パイ中間子」と呼ばれる粒子を経て、「ミューニュートリノ」と「電子ニュートリノ」ができる。
(※3)太陽ニュートリノ:太陽中心部で起きている「核融合反応」によって作られるニュートリノ。電子ニュートリノしか作られないことが分かっている。