世界500人の研究者で「人類究極の謎」に挑むプロジェクト・リーダーの「意外なストレス解消法」…単身赴任中に「出張」して子育てをしながら感じた「女性研究者の活躍の意義」とは
「なぜ私たちが存在しているのか?」
これは実は、現代の物理学で説明できない究極の謎であることを前編『』で見てきました。この大きな謎に、国際的に500人もの研究者がかかわるプロジェクトのリーダーとして挑戦を続けてきた市川さん。いったいその旅はどのように始まり、どのように成し遂げられてきたのでしょうか。
前編『「なぜ宇宙には物質が存在しているのか?」実は現代の物理学でも説明できない究極の謎だった…素粒子実験の第一人者が語る「ニュートリノがなければ人類も誕生できなかった」という不思議』に続き、新しい実験装置を自分たちで作るのは楽しいと語る市川さんに、研究者人生としての20年とその背景、研究者が置かれている環境などについて伺いました。

「物質と反物質の違いが見えたらかっこいい」と手製の装置で世界最先端の研究へ
―どうしてニュートリノの分野に進もうと思いましたか?
大学院までは「ダブルハイパー核」といって、「ストレンジクォーク」(※4)が2個入っている特殊な原子核を探す実験をしていたんです。でも、博士論文にするには時間切れで、その実験の中の別のデータで論文を書きました。そしたら2週間後ぐらいに後輩から「ありました」って言われて。ダブルハイパー核が見つかったんですよ。
それで、ポスドク研究員では新しいことをやってみたくなって、どういう研究をしたいか、いろいろと悩みました。ニュートリノは元々なんとなく興味はあって、いろんな人の話を聞いていた時に、加速器ニュートリノ振動実験を世界で初めてリーダーとしてされた方に話を聞きに行ったら、「ニュートリノ、次は『CP対称性の破れ』だよ」と言われて、「あ、おもしろそう」て思ったんです。CP対称性の破れというのは、物質と反物質の違いがあるということですが、「CP対称性の破れが見えたらかっこいい」くらいの気持ちで入ったら、あっという間に20年たっていました。
(※4)ストレンジクォーク:素粒子の一つで、より軽いクォークである「アップクォーク」や「ダウンクォーク」にすぐに変わってしまう。ダブルハイパー核の構造を調べることで、原子核をまとめている核力の理解を目指す研究は今も行われている。
