正解を知っているのは自分だけ
むろん、これまでの大谷の野球人生にも幾多の危機があった。日本ハム時代から幾度も足を故障し、'18年には、肘に大きな損傷が見つかって靭帯再建手術も受けている。
これまで大谷がケガをするたびに、多くのプロ野球OBが「投打のどちらかに絞るべきだ」と主張してきた。実際、どちらかに絞って経験を積んだほうが、身体の負担も減り、突出した成績も残しやすいように思える。
しかし、大谷は決して耳を貸さなかった。
〈もしかしたら、片方をやっていたほうがいいのかもしれない。でもやっぱり、二つをやっていたほうがいいのかもしれない。そこには正解はなくて、僕としては「やったことが正解」というだけなんです〉
成績を残すかどうかは、他人の関心事であって、自分の目標ではない。自分が選んだ道だけが、唯一の「正解」である。

大谷のこの信念は、結果的に脳科学的にも正しいものだった。
脳内科医で「脳の学校」代表の加藤俊徳氏が言う。
「最新の研究では、脳は高い目標を掲げるとそれに適応し、達成に向けて成長することがわかっています。筋力と同じように脳も強くなっていく。
大谷選手は『二刀流を成し遂げる』という目標を掲げたからこそ、脳もそれに最適化し、同時に脳のコントロール下にある肉体も、二刀流にあわせた反応力を身に着けていった。自分自身の基準を持って道を選び取るということは、それほど重要なのです」
自分が宣言した道を、迷うことなく突き進む。言うは易しだが、決して簡単なことではない。