ユーモアを交えつつ誰とも違う視点で人間を哲学するPOP思想家の水野しずさん。
町田康さん、佐久間宣行さん、能町みね子さん、吉田豪さん、最果タヒさんなど多くの著名人のファンや熱狂的読者を持つ彼女が、3月31日初めての論考集『親切人間論』を刊行する。

本書から、発売直前の特別抜粋掲載でお届けする第1回は、善意の思い込みに関する考察。
「良かれ」と思ってやったはずのことが、実はその相手には「良いこと」ではなかった、という経験は誰にもあるはず。でもこのことが本当に不幸なのは、善意でした側がそのことの正しさを疑うことはほとんどないということだ。まるで「良かれ」ハラスメントのように。
「良かれ…….」の奥底に潜んでいるものは何か。その目から鱗の結論まで読んでほしい。

2023年3月31日刊行
 

唐揚げにレモンをかけてしまった!

「良かれ……‼」と思ってやったことが大失敗ということは人生の常であり、私自身も度々失敗の経験があります。

よくある話です。
良かれと思って唐揚げにレモンをかけてしまった……良かれと思ってハラスメント体質の彼氏と別れるように説得してしまった……良かれと思って美大受験を勧めてしまった……。

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大失敗をされてしまった側からすれば、出会い頭の事故のような避け難い、どうにもならないアンラッキーな不幸ですが、やってしまった側はやってしまったことには大抵気がつかない。むしろ、何か良いことをしたというつもりでいたりして。
残念ながら、思い込みが強いほうがなにかと生きやすく、想像力を張り巡らせている人は損をしがちであります。

どうしてこんなことが起きてしまうのか。
私自身も、いまだに忘れがたい強烈な「良かれ……‼」の洗礼を受けたことがあります。
発達障害の治療薬を服用し始めたときのことです。