岸田父子との因縁
それから54年後の故・安倍晋三元首相である。中南米5カ国歴訪中の2014年7月31日、滞在先のチリ・サンティアゴでの同行記者団との内政懇談で、9月の内閣改造・自民党役員人事について「全くの白紙だ。人事はアンデスの雪のように真っ白。白さも白しアンデスの雪ということですね」と語った。安倍氏は一連の故事来歴を念頭に質問に答えたが、残念ながら同行記者でピンと来た者は皆無だった。
時代背景、人物攻勢、状況設定が異なるが、同年夏時点で永田町の関心事は安倍氏が続投を求める石破茂幹事長をどう処遇するのかに集中していた。ところが、安倍氏はまさに戦後政治秘史に違わず総裁経験者の谷垣禎一幹事長、石破地方創生相というサプライズ人事を断行したのだ。

なぜ、56年と60年の総裁選に関するエピソードを『独占告白 渡辺恒雄』から引いたのか。もちろん、理由はある。開成中学を卒業した渡辺氏は開成高校卒業の岸田文雄首相とは同じ開成学園出身であり、旧制東京高等学校では岸田氏の父・岸田文武元衆院議員と同級生である。すなわち、岸田父子とは二代にわたる同窓生なのだ。
現職首相が“読売新聞のドン”である渡辺氏のもとを訪れる――異例と言っていい。「首相動静」によると、3月8日に東京・大手町の読売新聞東京本社で午後1時44分~同2時20分まで懇談している。昨年も1月7日(会食)、6月3日(同)、10月26日(懇談)の3回、いずれも同紙本社であった。