「ロシアを追い詰める『西側』の陰謀を撃退し…」プーチン大統領がいま考えていること

プーチンの「歴史認識の壮大さ」

プーチン大統領によれば、現在起こっている戦争の犠牲者に対する責任は、キーウのウクライナ政府を操っている「西側」にある。プーチン大統領の演説によれば、キーウの政府は、外国の利益に奉仕し、自国民の利益を忘れている。

目を見張るのは、歴史認識の壮大さだ。プーチン大統領によれば、「西側」のロシア苛めは19世紀から始まった。なぜならオーストリア=ハンガリー帝国とポーランドが結託して今のウクライナの領土をロシアから奪おうとしたからだ。この試みは、1930年代にナチス・ドイツによって繰り返された。

この大演説からわかるのは、プーチン大統領が19世紀「オーストリア=ハンガリー帝国」、「ポーランド」、20世紀「ナチス・ドイツ」、21世紀「アメリカ」を、全部まとめて「西側(The West)」という概念に押し込んでいることだ。

この壮大な「西側」なる怪物に立ち向かうロシアも、しかし、やはりすごい存在であろう。プーチン大統領によれば、「ロシアは一つの国であると同時に、一つの確固たる文明である」「祖先たちから現代のロシア人たちが受け継いだ」この「一つの文明としてのロシア」を守るために、プーチン大統領は「西側」という怪物に立ち向かう。

壮大ではあるが、あまり深遠とは思えない見え透いた「怪物としての『西側』に立ち向かう文明としてのロシア」のロジックは、国内向けだろう。国際的には、あまりアピール力があるようには見えない。

つづく「プーチン大統領の主張は『妄想』に近い…その『文明』論の限界を指摘しよう」では「文明の衝突」や地政学の視点から、さらにプーチンの思考の分析をしていく。

(ブログ「『平和構築』を専門にする国際政治学者」より一部編集のうえ転載)

新刊『戦争の地政学』では、「英米系地政学」と「大陸系地政学」という地政学の二つの異なる世界観から、17世紀ヨーロッパの国際情勢から第二次大戦前後の日本、冷戦、ロシア・ウクライナ戦争まで、約500年間に起きた「戦争の構造」を深く読み解いている。