プーチン大統領の主張は「妄想」に近い…その「文明」論の限界を指摘しよう

この戦争は地政学理論の世界観の衝突だ

なぜ戦争が起きるのか? 地理的条件は世界をどう動かしてきたのか? 地政学はロシア・ウクライナ戦争をどう説明するのか?

「そもそも」「なぜ」から根本的に問いなおす話題の新刊『戦争の地政学』著者の篠田英朗さんが、プーチンの思考を文明論と地政学の視点から読み解く。

前回はこちら:「ロシアを追い詰める『西側』の陰謀を撃退し…」プーチン大統領がいま考えていること

プーチンの思考方法とは何か

1990年代にサミュエル・ハンチントンが『文明の衝突』を著したとき、ロシアというよりは、「正教会」文化の圏域が、一つの文明圏として扱われた。

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この文明圏の存在が存在しているかどうかも一つの論点だろうが、実在していると仮定しても、それは必ずしも「ロシア文明」のことではない。

ウクライナの人々は、ウクライナは「ロシア文明」の一部とみなすロシア人の思い込みに抗して、ウクライナは自分たちの祖国防衛戦争を行っている。

同じ文明圏に属しているにもかかわらず、わざわざロシアがウクライナに侵略戦争を仕掛け、それで反発されて激しい抵抗を受けている状況は、奇妙だ。「抵抗しているのは、本当のウクライナ人ではない、『西側』に操られた傀儡だ」といった主張は、苦肉の策と言わざるを得ない。

結局、プーチンの思考方法は、「文明圏を固定化すると世界は安定する」、という「圏域」思想に依拠している。「大陸系地政学」理論の典型的な発想方法に基づいている。