国連貿易開発会議(UNCTAD)が、環境汚染産業の第2位として挙げている繊維・アパレル業界。大量生産・大量廃棄、CO2排出量の増加や水質汚染などの環境への負荷、労働環境問題など、多くの課題が指摘されている。各ブランドが、消費者と地球に寄り添った取り組みを進めることが急務となっているなか、あるグローバルブランドが始めたプロジェクトが話題となっている。
国境を越えたチーム一丸となって、一歩を踏み出した「コーチ リラブド」
クラフトマンシップを感じさせる上質なブランドバッグは、時代を超えて親から子へ受け継がれることも多い。持つ人の歴史がレザーの表情に現れ、年月がそのまま味わいになったヴィンテージバッグを永く愛用することは、現代においてはサステナブルにも通ずる。
そんな“つくりのよいものを大切にする”という価値観に、新風を吹き込むようなプロジェクトを始めたグローバルブランドがある。アメリカ・ニューヨークで1941年に創立し、日本国内でも幅広い層から支持を得ている「COACH」だ。連載「SDGs×ファッションのミライ」第6回では、COACHのプロジェクト担当チームにお話を伺い、この取り組みの全貌や背景について取材した。

COACHのバッグを新たなアイテムに生まれ変わらせようという、「COACH(Re)Loved(コーチ リラブド)」と名付けられたこのプログラムは、顧客から引き取った古いバッグを“リストア”“リメイド”“アップクラフト”という3つの切り口に分けてよみがえらせるという、地球環境に配慮した循環型の取り組み。2021年に本国のアメリカで導入され、日本では2023年1月から本格的に開始された。何がCOACHを突き動かしているのか。その背景には、アメリカ・コロンビア大学の研究によると「不要になった衣類や鞄の85%は埋め立て処分をされている」という現状があり、地球環境を少しでも守りたい、自社ブランドで環境に与える影響を軽減し、廃棄物を減らしたいという想いがあった。国の垣根を越えてチーム一丸となり、始まりの一歩を踏み出したのである。
大きな壁となったのは日本特有の“古物営業法”
「日本でも『コーチ リラブド』プログラムを実施したい」とアメリカ本国から声がかかったのが2022年2月頃。その3ヵ月後には実現に向けて、本国チームと約5ヵ月間、週2回のミーティングを重ねてきた。その中で判明したのは日本には「古物営業法」という“大きな壁”が立ちはだかっていること。古物商やリサイクルショップなどで中古品の引き取りや売買をする際に守らなければならない法律で、バッグを引き取るためには店舗ごとに営業所を登録し、各店舗の管理者スタッフの略歴書や本籍地記載の住民票の写し、誓約書などを管轄の警察署に提出して許可を得る必要があった。
誓約書とは、簡単にいうと「過去に罪を犯していない」「破産者でない」などの欠格事由に該当していないことを誓約するための書類だ。法務部とともにそれらをすべてクリアにするのが第一関門であり、さらに本国側が目標としていた開始時期に合わせて、限られた期間内でスタッフ全員の書類を集めて準備するというのが大変だったという。