「日本映画には余裕がたりない」庵野秀明が『シン・仮面ライダー』を制作して抱いた危機感
『シン・仮面ライダー』(原作・石ノ森章太郎、脚本・監督・庵野秀明)が2023年3月17日(金)より公開された。
映画の公開と前後して、『仮面ライダー』誕生の聖地、東映・生田スタジオに集まった人々のドラマを描く書籍『「仮面」に魅せられた男たち』(牧村康正著、講談社)が刊行される。
本書には多数の関係者の貴重な証言が収録されているが、『シン・仮面ライダー』監督の庵野秀明氏もその一人だ。『シン・ゴジラ』『シン・ウルトラマン』と『シンシリーズ』を立て続けにヒットさせた庵野氏は、日本映画の現状に危機感を覚えているという。記事前編に続き、書籍より、一部を再編集してお届けする。
興味がない人にも届く企画
つまり庵野は、『シン・ゴジラ』をマニア向けに特化した内容にすると、元が取れないと判断していたのである。
換言すれば、マニア狙いで元が取れるレベルの作品で終わるつもりはなかったということでもある。
そしてこの判断は『シン・ウルトラマン』でも踏襲(とうしゅう)された。
「企画としては、『シン・ゴジラ』と同じく『一般映画』としての枠組みを目指しました。『ウルトラマン』シリーズの劇場映画はこれまで興収10億を超えた前例がなく、今までの路線の範疇(はんちゅう)だと制作規模が通常枠を越えないと成立が難しい本作のような企画だとリクープの可能性がかなり低く、厳しいと思います。なので、非常に高いハードルですが、ウルトラマンにさほど興味もなく名前を知っているだけの人にも興行的に届く可能性を上げた企画内容と脚本を目指しました」(庵野秀明『シン・ウルトラマン デザインワークス』)
『シン・ウルトラマン』(2022)は興収40億円突破の大ヒット作となり、日本映画界における特撮ヒーローの存在感を見せつけることになった。
だが、この結果は『シン・ゴジラ』の成功をふまえれば驚くことではないように思われてしまいがちだ。

しかし、逆にいえば、前例なきスタイルで制作された『シン・ゴジラ』はそれだけハードルが高く、未知の領域への挑戦だったわけである。
庵野は『シン・ゴジラ』の制作に当たり、ヒーローの人気頼みという従来の方法論を完全否定していた。
「国産のゴジラ映画も本作で29本目なので、企画開発や脚本作業にもある程度のルーティンというか『ゴジラ映画はかくあるべし』みたいな刷り込みや思い込みが開発チームの各人に存在していましたね」(『ジ・アート・オブ シン・ゴジラ』)
そのため庵野は、撮影現場におけるルーティンの否定と破壊から始めたという。
「ぼくも現場で怒鳴らなきゃいけないときは怒鳴っています。でも、本当に怒って怒鳴ることはまずないですけどね。いま怒鳴っておかないと現場がしまらない、というときだけです。怒っているふりが8割ですけど、本当に怒っているのは2割くらい。
ただ、『シン・ゴジラ』のときはずっと怒鳴っていました。あれは本当に怒っていたんで」(庵野秀明へのインタビューによる、以下同)