1万件超の事案を手がけた元裁判官・瀬木比呂志さんの新刊『我が身を守る法律知識』が話題だ。相続、交通事故、離婚、不動産トラブル──「人生の地雷原」といえるあらゆる法的トラブルの予防法を、豊富な裁判経験を元にわかりやすく教えてくれる。
そんな「地雷原」の中から、人間の秘められた部分がもっとも露わになる「離婚」と男女間トラブルの予防策、親族法改正で議論されている「共同親権制」についてお話を伺った。
日本の「有責主義」の問題点
―― 離婚といえば、私の知人に、離婚調停で散々苦労した人がいます。相続もそうですが、「骨肉の争い」が法廷に持ち込まれると、かなりややこしいことになりそうですね。すでに婚姻の継続が難しくなっているのですから、一方の意思表示があれば、簡単に離婚を認めてもよいように感じますが。
瀬木 どんな場合に離婚できるかについては、民法770条に規定されていますが、実際に離婚訴訟等で中心的に問題になるのは、多くが、いわゆる性格の不一致等の「その他婚姻を継続しがたい重大な事由」(同条1項5号)に当たる事柄なのです。
そして、判例は、「有責配偶者」すなわち婚姻の破綻(はたん)事由について主な責任がある者の離婚請求については、別居期間が相当に長いなどの要件を満たさないと、認めていません。
この「有責配偶者の離婚を(原則として)認めない」法理は、戦後当初は「身勝手な夫から妻への離婚請求を認めない」という意味があったのですが、今では、
1 妻が別れたい場合にも、夫が「妻は有責配偶者である」と主張すれば訴訟にまで至る争いをしなければならない
また、
2 「夫婦が相互に相手が自分よりも悪いことを主張しあう」のが離婚訴訟の一般的なあり方になってしまう
などの弊害のほうが大きくなっているように思います。
詳しくは『我が身を守る法律知識』該当部分のとおりですが、離婚についても、入口の「離婚事由」からして、一定の法的な知識とリテラシーがないと何だかよくわからない、というのが現実でしょう。

―― 欧米の場合には、もっと簡単なのですか?
瀬木 欧米は、日本の基本有責主義と違い、基本的に破綻主義です。
たとえば1年間、3年間等の別居があれば原則離婚を認め、ただし、妻が被る経済的不利益については夫のほうに重めの負担を課すなど、女性保護的な指向が強いです。
離婚については 本来、ことに、弱い立場になりやすい妻や子の保護という観点から、「裁判所ないしはそれに準じる機関による最低限のチェック」がなされるべきです。
たとえば、合意が本当に成立しているのか、財産分与等の離婚給付は適切に行われるのか、子の面倒は誰がみるのか、養育費とその支払、また子とともに暮らさないことになる親と子の面会交流等について適切な合意ができているか、などといった事柄です。
しかし、この点では、日本は、欧米標準どころか、世界標準にも後れるようになってきている、というのが事実ですね。
したがって、離婚訴訟に先立つ離婚調停についても、ことに各種の離婚給付を強く求めたいような場合には、弁護士に委任して臨むのがベターでしょうね。