2023.03.25

「このままじゃ、捕まる」日本で死にきれなかったガーシーはなぜドバイに飛んだのか…出国する前日にかかってきた電話番号の正体

国会での処分をめぐり日本中の注目を集めたガーシー。爆弾告発男として日本のVIPたちを震え上がらせたガーシーCHには、ガーシーを後押しし、そのスキームを提案した黒幕がいた――。

億単位の借金を抱え、詐欺疑惑をかけられたガーシーは、黒幕「A」に呼び寄せられ、ドバイの地を踏む。ガーシーCH誕生前夜の秘話を、元朝日新聞ドバイ支局長・伊藤喜之氏の話題沸騰の新刊『悪党 潜入300日 ドバイ・ガーシー一味』からご紹介する。                         連載『悪党』第2回前編

※本書では後に明かされるが、本文中の「男」とはガーシーこと東谷義和氏である。

すべてを失い、ドバイにやってきた男

真夏には最高50度にも達する灼熱の都市ドバイであっても冬といえる季節はある。平均気温が10~20度台に下がり、誰もが快適さを感じられるのは毎年11月から3月初旬にかけてだ。酷暑への服従を宿命づけられた、この地に暮らす者たちにとっては救われたような心持ちになる祝祭的な季節である。
  
2021年12月18日午前5時半すぎのことだ。

そんな冬を迎えたドバイ国際空港の第3ターミナルに黒い帽子を被った男が降り立った。乗ってきたのは日本からのエミレーツ航空の直行便だ。

男が空港のゲートを出ると、ベージュ色と赤を基調にしたタクシーが3列に車列をつくっていた。市街地へはメトロも走っている。

しかし、男はためらった。「ここでカネは使えへん」。日本を発つ直前に妹を通じて親類から数十万円を借りることができたが、飛行機代に大半が消え、手元に残っていたのは当面の宿代に回すつもりの数万円ほどとポケットに入れたままの110円の硬貨だけだった。

仕方なく空港内のベンチに腰掛け、アイフォンを取り出して空港の無料Wi‐Fiに接続した。メッセージアプリを起動し、ドバイに住む友人Aにメッセージを送った。

「ドバイについたんやけど」

実は数日前に、Aは男に「大丈夫ですか」と身を案じるメッセージを寄越していた。そればかりか、「ドバイに来たらどうですか。住むところも用意できます」と申し出てくれていた。

  • 『成熟とともに限りある時を生きる』ドミニック・ローホー
  • 『世界で最初に飢えるのは日本』鈴木宣弘
  • 『志望校選びの参考書』矢野耕平
  • 『魚は数をかぞえられるか』バターワース
  • 『神々の復讐』中山茂大