他のお仕事頑張るので勘弁してください

「バラエティ番組のコントではなく、作品としてのコントが作りたい」という松尾スズキさんの志のもとで生まれた、あまりにも本格的なコントドラマがあることをご存じだろうか。

松尾スズキさんといえば、劇団「大人計画」を主宰する演出家で劇作家、他に映画監督やコラムニスト、俳優としても活躍する日本を代表する鬼才だ。その松尾さんが、日本を代表する女優とタッグを組んだ「松尾スズキと30分の女優」は、松尾さんが脚本・演出を担当するコントドラマである。WOWOWで放送・配信されているこのシリーズには、吉田羊さん、多部未華子さん、麻生久美子さん、黒木華さん、生田絵梨花さん、松本穂香さん、松雪泰子さん、天海祐希さんと、これまでも錚々たる女優が出演してきた。

常識から逸脱したシュールなシュチュエーションの中、「笑わせよう」という下心を持たないピュアな女優魂が炸裂することで、観る側の正常な情緒を撹乱してゆく。その第三弾に、松尾さんからの長年のラブコールを受けて松たか子さんが出演。「松尾スズキと30分強の女優〜松たか子の乱〜」と題し、6本のコントが放送・配信される。

撮影/江森康之
 

「最初に誘っていただいたのは、何のときだったか……。とにかく、ずっと『無理です』って言って逃げていたんです。私は面白い人間ではないですし、面白いことができるとも思えなかった。『ほかのお仕事頑張るので勘弁してください』と。そろそろ忘れているだろうと思ってたら、結局また誘っていただいて。もう断る理由が思いつかなかった(苦笑)」

出来上がった6本のコントで、松さんは、コスプレや、厚手のカーテンの間から顔だけ出して子供を叱るシュールすぎる役にも挑戦している。衣装合わせの時間もあったというが、抵抗はなかったのだろうか。

「全くないです。事前に、1日で衣装合わせとリハーサルがギュッと詰め込まれた日があったんですが、撮影本番までには、完全にそれぞれの役にふさわしい衣装が用意されていていました。初日に撮影したのが『顔だけ倶楽部』で、キュー(合図)と同時に、一瞬でカーテンの中から顔だけ出さなければならない役だったんです。布と布の隙間から、瞬時に顔だけをうまく出せるのか。そこはすごく難しかったです。キューが出るまでは、手でずっと布をおさえているので……。

でも、美術スタッフさんが素晴らしく強力なクリップで布の上下を挟んでくださって。しかも、私の顔や頭のサイズを測って、ここまでなら押さえてもパッと出られる場所を見極めて、きちんと止めてくださった。手元にあるキューのサインを確認してから顔を出すのに、0コンマ何秒かのタイムロスはあるのが気になって気になって。そのカーテンの扱いだけが自分がちょっと不安だったところです」