黒柳徹子さんの著書『窓ぎわのトットちゃん』がアニメ映画化され、2023年冬に公開の予定なのだという(全国東宝系)。
本書は1981年に刊行され、現在世界各国の翻訳も含め2500万部を超える国民的ベストセラー。黒柳さんの実体験をもとに、「じっとできない子」というレッテルを貼られていた主人公のトットちゃんが、トモエ学園で生き生きと成長していく姿が描かれる。
今でこそようやく認識されるようになった「個性の大切さ」「みなと同じでなくていい」という価値観を教えてくれた作品と言えるだろう。
『ポンコツ一家』にて、80歳のとき認知症だとわかった母、ダウン症の姉、酔っぱらいの父との同居について綴っているにしおかすみこさんは、実は『窓ぎわのトットちゃん』には特別な思いがあるのだという。
母親が、姉とにしおかさんの子育てのバイブルのようにしていたというのだ。
それはどういうことなのか。にしおかさんに執筆いただく前編「にしおかすみこ、ダウン症の姉と共に『窓ぎわのトットちゃん』で「個性」を知った話」では、幼少期に「個性」の大切さを言われていたことを綴っていただいた。後編ではさらに年を重ね、SM時代にも……。「トットちゃん」がにしおか家に与えた影響とは。
足が速いことに気づく
私はいつだったか、足が速いほうだということに気づいた。
マラソン大会を1番でゴールし、汗もすっかり冷えた頃。姉が全校生徒の1番ビリで、引率の先生と校庭に姿を見せる。生徒、先生、親御さん皆が拍手を送ってくれる中、ヒーローのように目を輝かせながら、白いゴールテープをバンザイで切る。

ヒーローがキョロキョロし出す。私を探している。姉の見える位置に顔を出す。「すみちゃーん!こっちこっち!」と手招きしながら、こちらに寄ってくる。ペラペラの台紙に金の折り紙を貼ったメダルを見せ「これえ!おねえちゃんがとったの!すみちゃんにあげる~」と。私の首にはそもそも自分で獲ったものが収まっている。その上に、かけてくれる。少し重みを感じるメダルに、ヒラヒラと風に舞うメダルが寄り添う。
母が私たちを見つける。自分がマラソンをしてきたかのようにハァハァと息を切らせながら
「もぉ~、まいったぁー。あんたが最初で、みんなが良かったねえ、すみちゃん速かったねえって言ってくれるもんだから、すみませんありがとうございますって。そしたら今度はお姉ちゃんが最後で頑張ったねえ、偉いねえって言われて、すみませんありがとうございますって。ママ大忙しでクッタクタだよ」と、私たちを引き寄せた。
「これ私の個性だよね。ママ嬉しい?」と聞いた。
母の顔が少し曇る。「……それはあんたが好きなことなの?ママが、お姉ちゃんがじゃないよ。誰のための個性なの?すみが生きていくためだよ。個性はあんたを幸せにするからね。ゆっくり見つけなさい」と。やっと見つけたと思ったのに……母の言わんとしていることが、よくわからなかった。
私にとって、姉と母が、うっとうしい、恥ずかしい、愛おしいがごちゃ混ぜの時期でもあった。