なぜか「日本人の女性」は若い時の「乳がん」発症率が「欧米人なみ」という「驚きの事実」
*本記事は『欧米人とはこんなに違った 日本人の「体質」 科学的事実が教える正しいがん・生活習慣病予防』(講談社ブルーバックス)を抜粋・再編集したものです。
日本人の乳がんはどう違う?
有吉佐和子の小説『華岡青洲の妻』は、今から約200年前に、世界で初めて全身麻酔をほどこして手術をおこなった医師、華岡青洲と、命をかけて華岡の研究を支える家族の物語です。映画やテレビドラマになり、何度も舞台化されて有名になりました。
華岡が成功させたのは乳がんの手術で、その著書には「乳巌」と記載されています。時代がくだると「乳岩」という記述も登場しますが、いずれも「がん」と読み、石のように固く、ゴツゴツしていることをあらわす漢字です。当時も、しこりができるのを乳がんの特徴と考えていたことがわかります。
そして、がんを意味する英語の「cancer」も乳がんに由来する言葉です。もとは星座のかに座をあらわす単語で、乳がんが増殖すると周囲に血管が広がり、その様子が、カニが足をのばしたように見えることから、2000年以上前に命名されました。人類は大昔から、乳がんの発生と増殖を手でふれ、じかに目撃してきたのです。
それから長い時が流れ、近年、乳がんになる日本人女性が増えています。1990年代後半に胃がんを抜いて、女性が発症するがんの第1位になりました。図9-1の上のグラフは、女性のがんの発症率の変化を部位別に見たものです。

減少を続ける胃がん、頭打ちになった大腸がんの間から、乳がんが右肩上がりに飛び出していますね。これに呼応するように、下の男性のグラフでは前立腺がんの発症率が上がっており、2024年には、日本人男性で最も発症率の高いがんになると予測されています。
乳がんと前立腺がんには共通点があり、前立腺がんであれば男性ホルモン、乳がんなら女性ホルモンの影響を受けて増殖するがんが大部分を占めています。そのため、この性質を利用して、がん細胞が性ホルモンの作用を受けないようにすることで、がんの増殖を食い止めるホルモン治療がおこなわれています。