2023.04.03

東大のトップが、「自分の頭で考える」ことに「批判的な言葉」を向けた理由

そこにある独特の危うさ

「自分で考える」の愚かさ

4月、あらたな環境でエラい人の訓示を聞く機会も多くなるかもしれません。

そうした訓示にしばしば登場するのが、「自分で考える」「自分の頭で考える」ことを大切にせよ……という教えです。「自分の頭で考える」——たしかにどことなくカッコよく、実践してみたくなる雰囲気をもっています。

しかし、「自分で考える」「自分の頭で考える」のは本当によいことなのでしょうか?

たとえば、フランス文学や映画の研究者であり、作家としても知られる蓮實重彥氏は、東京大学の総長を務めていたおりに、「自分で考える」ことに批判的なまなざしを向ける文章を書いています。

それは、東京大学の学内文書である『教養学部報』419号(1998年4月)に掲載された「思考の誕生」という文章です。現在は『齟齬の誘惑』という書籍で全文を読むことができます。

そこで蓮實氏は意外にも、「自分で考える」ことが「愚かなこと」だという指摘をしています(読みやすさを考慮して、改行の位置を編集しています)。一部を引用してみましょう。

〈なるほど、「自分で考えること」の重要さという命題には、にわかには反論しがたい正当さがこめられているかにみえます。それを否定するには、「自分で考えること」は愚かなことだという真実をあえて立証すべきなのかもしれません。そうすることは、人類の一人としていささか気が滅入ります。だが、その必要はありません。「自分で考える」ことの擁護が、あくまで抽象的な言説でしかないことを指摘すればそれですむことなのです〉

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