2023.04.14
東大の「トップ」が、パリ大学の教授をつい「妬ましい」と思ってしまった“意外な理由”
早く社会に出たほうがいい?
4月、多くの企業に新入社員が入ってきます。
その大部分は、高校や専門学校、あるいは大学を卒業してすぐの、10代後半から20代前半の方たちで占められていることでしょう。
日本では、大学の学部を終えた「学士課程修了者」が大学院へ進学する割合はだいたい10%ほど。20代半ば、あるいは20代後半になってからいわゆる「社会に出る」ことは、まだまだ「一般的」とは言いいがたいかもしれません。
そしてなんなら、早く社会に出ることにポジティブな意味があたえられる傾向がなくもありません。
しかしこうした状況に、不安や疑問を感じる人たちも少なくないようです。ここでいう不安や疑問とはすなわち、若い人が「早く進路を決めること」が評価される社会でよいのか? というものです。
たとえば、かつて東京大学で総長をつとめた、フランス文学や映画、表象文化論の研究者である蓮實重彥氏は、1998年に『山岡育英会会報』という媒体に寄稿した「贅沢な「ノイズ」への投資を」という文章でこう述べています(現在、この文章は蓮實氏の講演や寄稿を編んだ『齟齬の誘惑』という書籍で読むことができます)。
〈ついせんだって、マルセル・プルースト研究の世界的な権威であるパリ大学の教授にお会いしたのですが、その方との食事中の会話でも、同じような妬ましさをおぼえたものです。その教授は、フランスの工学系の秀才校ポリテクニックの出身で、土木技師の資格を持っておられました。その教授が、自分はある基金から奨学金をもらって数年間にわたって畑違いの文学研究を試み、二〇代の後半になってから、それを職業とすることに決めたのだといっておられたからです。〉