2023.04.18

偉大な「ヘロドトス先輩」を乗り越えて、トゥキュディデス「歴史学」への第一歩!

古代ギリシア「二人の天才」のドラマ

ヘロドトスとトゥキュディデスって――何だったっけ? たしか古代ギリシア? どっちかがペルシア戦争の歴史を書いて……と、うろ覚えの読者が多いだろう。そう、この二人は紀元前5世紀のギリシアに生きた「歴史家」だ。しかし、ここで「歴史家」と言い切ってしまうことには「少々のためらいを感じる」と東京大学名誉教授の桜井万里子氏はいう。二人の天才の対照的な個性が生んだドラマを、桜井氏の著書『歴史学の始まり ヘロドトスとトゥキュディデス』(講談社学術文庫)から見ていこう。

「歴史」も「歴史家」もまだ存在しない

紀元前5世紀の初め、アジアの大国ペルシアが、ギリシア征服をもくろみ大軍を派遣してきた。ギリシアの人々は、都市国家アテナイを中心に結束してペルシア軍を撃退、なんとかギリシアの自由を守る。これがペルシア戦争で、この戦争を記録したのがヘロドトスだ。

この戦争のあと、強大化するアテナイに脅威を感じた都市スパルタがペロポネソス同盟を組み、アテナイを中心とするデロス同盟と戦った。紀元前404年、アテナイの敗北で終結したこの戦いをペロポネソス戦争と呼び、この戦争を記録したのがトゥキュディデス。

ヘロドトスとトゥキュディデスによる作品は日本語にも訳され、それぞれ『歴史』『戦史』の書名で岩波文庫にも収められている。しかし――、

〈その書名のゆえに両者の作品が歴史であると最初から思い込んでしまうことには、「待った」をかけたい。なぜなら、二人が著述を始めた当時、世界には「歴史家」という言葉も「歴史」というジャンルもまだ存在していなかったのだから。そして、当時はまだ作品に書名を冠するという慣習もなかったからである。〉『歴史学の始まり ヘロドトスとトゥキュディデス』20頁)

ヘロドトスはその作品冒頭で、自らの著述の方法として「ヒストリエー」という語を使っている。これが英語のヒストリーの語源であるギリシア語「ヒストリエー」の最初の用例だという。しかし、それは「調査・探究」という意味でつかわれており、現在の「歴史」とぴったりとは一致しないのだ。

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