「カナダで、がんになった。
あなたに、これを読んでほしいと思った」
直木賞を受賞作『サラバ!』を始め、『ふくわらい』『夜があける』『さくら』など私たちに現実の世界を、多くの感情と共にまっすぐに届けてくれる作家・西加奈子さん。西さんの初めてのノンフィクション作品『くもをさがす』の初版帯には、冒頭のような言葉が描かれている。
そう、この作品は西さん自身が乳がんとなった体験を綴った一冊なのだ。
日本にずっと生まれ育った人にとって、海外での生活は思い通りに行かないことが多くて当然だ。では語学留学としてカナダに滞在している時、自分の身体が思うようにいかなかくなったら……。
しかし本作は、病気の経緯を綴った「闘病記」とは言い切れない。西さんが日本を離れて病気になったからこそ綴られた言葉からは、「幸せとは何か」「生きるとはなにか」「愛とはなにか」を考えさせてくれるヒントがたくさんちりばめられているのだ。そこには西さんからの心からの言葉で溢れている。
本作を執筆した西さんにインタビューをする第1回は、「まさか私が」と思ったという告知のときの話とコロナ陽性になったときのことをお伝えする。
「まさか私が」というベタな言葉通りに思った
「まさか私が。」日本人の2人に1人ががんになり3人に1人ががんで死亡すると言われていて、めずらしい病気ではなく誰もが罹患する可能性があるにも関わらず、なぜか自分は大丈夫だと思う。作家、西加奈子さんもそうだった。
「ベタやなと思いました。よく聞く言葉ですが、『まさか私が』という言葉通りにほんまに思うんだな、と。小説家として作品ではベタを書いてはいけないと思い込んでいましたが結構、人間ってベタやんと思いました。一人一人違うベタな人間をどう描くかが大事やなと気づくことができました。小説家として、この変化はよかったことですね」

新型コロナウイルス感染症拡大まっただ中の2021年8月、西さんは家族で滞在していたカナダで浸潤性乳管がんを宣告された。宣告されたときの気持ちはただ、「がんか、という感じだった」と西さんは極めて冷静に振り返る。
「整体で施術してもらっているときに電話がかかってきて、その電話口で言われたのですが、なんとなく覚悟していたのもあって、やっぱりな、そっか、そっかという感じでした。もちろんショックだったのですが、その時点ではまだ抗がん剤が必要ながんだとは思っていなかったんです。知り合いでステージ0で手術で取って終わりだったというような話を聞いたことがあったので、私も取って終わりだろうと考えていて楽観的でした」
