「原作に忠実」が絶対に良いわけではない…韓国の「二次展開」事情に学ぶ「小説原作のマンガ・ウェブトゥーン化成功の糸口」
出版科学研究所によれば、2022年の日本のコミック市場(コミックス+コミック誌+電子コミック)は6759億円と過去最高規模となり、マンガは出版市場の中で最大セグメントとなっている。
そんな中、対照的に厳しい市況が続く小説の編集者・出版社は、マンガ事業への参入や自社出版物のコミカライズによって商機を得ようという動きが強まっている。
しかしマンガ化、ウェブトゥーン化する側からすると、たしかに人気のある原作はほしいものの、原作者からあまり口出しされてもやりづらい。ところが著作権法上の著作者人格権に属する「同一性保持権」をタテに「原作から極力変えてくれるな」と言う原作者や編集者が少なくない。著作者人格権はたとえ著作権を譲渡・放棄したとしても著作者に残り続ける権利であり、売却できない。つまり法律上は、たとえ著作権を買い取ったとしても原著者が同一性保持権を持ち続ける。
「これでは韓国のウェブトゥーンやドラマのように原作から大胆な脚色をしてそのメディアに適した表現にすることができない」という声がマンガ、ウェブトゥーンの現場から聞こえてくる。
だが「韓国では著作者人格権の規定が日本と異なるからあんなに自由にできる」という理解は「誤解」である。日韓の原作からのアレンジの許容度の差異は「法律の規定(文面)」ではなく「運用」の違いにある。この点から二次展開成功のための解決の糸口を探ってみよう。
日韓の条文を比較する
日韓で同一性保持権とそれを含む著作者人格権についての法律の条文はそれぞれ以下のようになっている。
・日本の著作権法の条文
(同一性保持権)
第二十条 著作者は、その著作物及びその題号の同一性を保持する権利を有し、その意に反してこれらの変更、切除その他の改変を受けないものとする
(著作者人格権の一身専属性)
第五十九条 著作者人格権は、著作者の一身に専属し、譲渡することができない。

・韓国の法律解説サイトでの説明
同一性維持権
著作者は、その著作物の内容・形式及び諸号の同一性を維持する同一性保持権を有します(「著作権法」第13条第1項)。
これは、著作者が自分の著作物が本来の姿どおりに活用されるようにする権利であり、著作物の変更や削除は必ず著作者本人がするか、著作者の許可を受けなければならないことを意味します。
著作者人格権
「著作権」とは、著作者が著作物に対して持つ人格的・精神的利益を保護する権利であり、公表権、氏名表示権及び同一性維持権が著作権に該当します(「著作権法」第10条第1項)。
著作権は一身専属権として著作者が著作財産権を譲渡する場合にも創作者に残ることになります(「著作権法」第14条第1項)。 したがって、著作権譲渡契約の当事者が著作人格権も譲渡することに合意したとしても、これは無効であり放棄できない権利です<韓国著作権委員会-著作権相談センター-相談事例集>。
https://easylaw.go.kr/CSP/CnpClsMainBtr.laf?popMenu=ov&csmSeq=695&ccfNo=2&cciNo=1&cnpClsNo=1
このように、ほとんど変わらない。韓国はアメリカのように著作者人格権がきわめて弱い規定になっているわけではないのだ。だが「条文」ではなく、その実務的な「運用」は日本と韓国で異なる。