4月16日にNHKスペシャル「証言ドキュメント、日銀『異次元緩和』の10年」が放映された。ご覧になった方も少なくないだろう。「異次元の」と呼ばれた量的金融緩和が、賃金の上昇を伴う形で安定的に2%インフレ率(消費者物価上昇率)という目標をなぜ実現できなかったのか、政策関係者へのインタビューで特集されていた。
ところがこの番組、「なぜ」という問いに答える上で決定的に重要なポイントが抜け落ちていた。その点を解説し、植田新総裁の下での日銀の課題を考えてみよう。

そもそも「2%目標」とは
まず初めに、消費者物価指数の上昇率は既に3%を超えているのに(前年同月比+3.1%、2023年3月)、「インフレ目標の2%は未達成である」という日銀の現況判断自体に疑問を感じている方もいるだろう。
これは今の物価上昇はエネルギーや食糧価格の国際的な高騰と円安による輸入物価高騰が国内に波及した結果であり、そうした海外要因がはげ落ちると見込まれる今年度末頃までには、同物価上昇率は再び2%を割り込むと、日銀が判断しているためだ。
日銀は賃金の上昇を伴う国内需要の増加をベースに、物価上昇率が安定的に2%になることを政策目標にしており、その達成はまだ確認できないということだ。ただし過去数か月の展開は、過去20年間余の賃金も価格も凍結したような状況とは違う動きが出てきており、日銀の見通し通りになるかどうか、予断できない。
またなぜ0%ではなく、2%程度の物価上昇率が望ましいと考えられているのか。そもそも金融政策は名目の金利を上下動させることで、実質金利(=名目金利-期待インフレ率)を変動させ、景気変動を平準化させる効果が期待されている。
ところが名目金利はゼロ以下のマイナスにはできないので、景気後退時に金利引き下げによる景気押し上げ効果を出すためには、一種の「のりしろ」として2%程度の安定的なインフレ期待が必要だと考えられている。
さらにマイルドなインフレは、負債(借入)の実質コストを下げると同時に資産のリターンを高めるので、設備投資や住宅建設を活発化させ、中長期的な経済成長率を支援する要因になるとも考えられている。