「アピアランスケア」という言葉がある。その名の通り「アピアランス(外見)」をケアすること。がんをはじめとする病気の治療では、往々にして髪の毛が抜けたりむくんだりといった「容姿の変化」が起こる。その変化に悩む人は少なくない。

国立がん研究センターのがん統計(2022年更新)によると、日本では2人に1人ががんになると言われている中でも、女性のがんは乳がんが1位だ。アピアランスケア。「髪の毛が抜ける」ことに加え、「乳房の摘出」についての悩みも多い。シリコンなどでの豊胸手術もなされるが、そこには新たなる手術が加えられることにもなる。

直木賞作家の西加奈子さんは、先日初のノンフィクション『くもをさがす』を刊行した。そこには2019年から家族で滞在していたカナダでトリプルネガティブ乳がんだとわかったことが赤裸々に綴られている。発売前に10万部を超え、大きな話題を呼んでいる。

本書が多くの人の心をとらえているのは、「闘病記」とは一線を画し、西さんががんの治療を経て気づいた「幸せとは何か」というメッセージを全力で綴っているからではないか。この世に生きるすべての人に込められた言葉の力が、唯一無二の作品に溢れているのだ。
本書を綴った西さんにロングインタビューを実施した第1回では、「まさか私が」と思ったという告知のときの話や、本書を執筆した経緯とお伝えした。第2回では、乳房摘出手術を前に、「自分の身体を自分はどうしたいのか」という気づきを得た時のことをお届けする。

撮影/大坪尚人
 

英語が関西弁で聞こえる

西加奈子さん初のノンフィクション『くもをさがす』では、カナダの医療従事者の方々の「英語のはずの言葉」は関西弁で描かれている。本来ならつらく、悲しさに押し潰されそうないくつもの場面も不思議と関西弁だとあっけらかんと、ときにはクスッと笑いながら読み進められる。関西弁にした理由を聞くと「私にはそう聞こえていたから」と西さんは微笑む。

「バンクーバーの女性は元気で男性はわりとたおやな印象を持つことが多かったんです。私の理想が反映されているのかもしれませんが、女性は年齢問わずその元気さや距離感が私が育った大阪のおばちゃんたちを感じさせて居心地が良かったし救われた。道ですれ違いざまに言われる言葉が“その帽子すてきね!”じゃなくて、“それ、めっちゃいいやん!”って感じに、私の頭の中では大阪のおばちゃんの声で再生されていました

カナダ・バンクーバーに住み始めたのは2019年。旅に来たときの印象がこの場に決めた理由だという 写真提供/西加奈子

病院で西さんが「毛布をもらえる?」と(英語で)言うと「1枚10ドルな〜!」と看護師が返してくる。「絶対これ、関西弁やろ!というやりとりによって、カナダでの治療中に救われたことがいくつもあった」と西さんは話す。

撮影/大坪尚人