2023.04.26

貧しい漁村の生まれ、小卒の父親と中卒の母親、障害を持つ弟…明石市の名物市長・泉房穂の「原点」

自民党総理候補に泉房穂が圧勝!

4月23日に投開票された統一地方選。兵庫県明石市でこんな大事件が起きた。自民党は立憲民主に圧勝したと吹聴するが、明石市では泉房穂氏が立ち上げた地域政党「明石市民の会」に完全に敗北した。

明石市は泉房穂氏が3期12年にわたって市長を務めてきた。全国に先駆けて「異次元の子ども施策」を実行し、市の出生数のみならず人口、税収も飛躍的に伸ばして「明石モデル」と称賛された。今回はその名物市長が、これまたお馴染みとなった「暴言」を理由に辞職(政治家引退)。今回の市長選に突入した。

選挙戦は、泉氏が後継指名した丸谷さとこ氏と、自民党の総理候補と目される西村康稔経済産業相が全面支援する林健太氏の「代理戦争」となった。混戦を予想する新聞テレビの報道もあったが、フタを開ければダブルスコアで泉氏・丸谷氏が圧勝。明石市における泉氏の絶対的人気ぶりを証明する結果となった。

泉氏の市長任期はこの4月いっぱい。市長退任翌日の5月1日に出版される泉氏の著書『政治はケンカだ! 明石市長の12年』がいま、話題を呼んでいる。市長在任中にはけっして口に出来なかった、改革に抵抗する勢力との闘いの内幕を明らかにしているからだ。聞き手を『朝日新聞政治部』の著者で気鋭の政治ジャーナリスト・鮫島浩氏が務めている。

市議会、政党、宗教団体、マスコミ、市役所職員……。泉氏が「四面楚歌」の状態でいかに闘争してきたか、同書にはすべて記されている。発売に先駆け、同書の内容を特別に公開する。

連載『政治はケンカだ!』第2回前編

突然だった市長引退宣言 

鮫島 泉さんとは、2022年7月の参院選直前に初インタビューして以来、半年ぶりです。少子高齢化で人口減少に悩む自治体が多い中「9年連続人口増」「8年連続税収増」を成し遂げた明石市の子育て支援政策に、注目が集まり始めていた時期でした。改革の波は徐々に広がり、明石市周辺の自治体では選挙に勝つためにどの候補者も子育て支援策を掲げるようになりました。しかし2022年10月、二度目となる暴言騒動で実にあっさりと政治家引退を表明されて……。度肝を抜かれました。

 我ながら展開早いですね。ローリング・ストーンじゃないですけど、本当に目まぐるしい。『鮫島タイムス』で取り上げてもらった動画をかなり見てもらえたようで、前回の対談の直後ぐらいから、一気に火がついたように感じています。「明石でできたことは他の自治体でもできる」「明石でできたことは、国でもできる」というメッセージが届いたのかなと。市民に負担を課さなくても、明石で子ども施策が成功して、人口増・税収増につながったという結果が、みなさんの良いヒントになったのではないでしょうか。

ついに東京都の小池百合子知事まで子どもへの給付に舵を切りましたからね。マスコミは、「できるはずがない」と批判するばっかりですが、「トップが決断すればできる」と私は言い続けてきた。

実際に他の自治体が動き始め、「政治決断すれば、一定のことはできるんだ」という確信が得られ、非常に嬉しいです。大マスコミには到底及ばない、個人のツイッターという微力ですが、市民・国民に直接メッセージを発し続けた意味はあったかな。

鮫島 微力なんて、とんでもない。2021年末にツイッターを始められて、1年あまりでフォロワー40万人を突破しています。明石市で改革を進める泉市長に対して全国的な関心が高まっているのでしょう。

どの政党や団体からも支援を受けずに明石市長を務めてこられた、泉さんの3期12年間は、まさに孤立無縁の闘いの日々だったと言い換えることができます。今回は、泉さんの「闘争」にテーマを絞り、明石市長として変革を進める上で障壁となったいくつかの勢力について、片っ端から斬ってもらおうと考えています。

 人は私を「毒舌」と言いますが、私からすれば、奥歯にモノが挟まって口をグルグル巻きにされているぐらい、市長在任期間中は言いたいことが言えなかった。自分としてはもっと本質的なことを発信したかったのですが、ハレーションや誤解を避けるために、私なりにかなり我慢していたのです。ストライクゾーンのギリギリを投げてるつもりだったんですけど、他の人から見れば「頭めがけてビーンボールを投げた」ということになる。

この本の発売日には「明石市長」という肩書が外れるので、言いたいことを言わせてもらいます。「闘争」ということで言うと、市長になる以前から、私の人生は闘いの連続でした。政敵やマスコミだけじゃなく、ありとあらゆる敵と闘ってきましたから。

  • 『成熟とともに限りある時を生きる』ドミニック・ローホー
  • 『世界で最初に飢えるのは日本』鈴木宣弘
  • 『志望校選びの参考書』矢野耕平
  • 『魚は数をかぞえられるか』バターワース
  • 『神々の復讐』中山茂大