「ろくでもない人間がいる。お前である」って私のこと!?このヤバい小説をあなたはもう体験したか?

いきなり怠惰な自分をえぐるかのようなパンチの効いた一文が、昨年の9月末、Twitterを賑わせた。実はこれは常に奇想天外な文章表現でファンを魅了し続ける作家、舞城王太郎の小説『短篇七芒星』の書き出しなのである。驚くのは、同じ文章が半年ほど後の先月、さらにもう一度バズったことだ。書店の在庫はあっという間に払底し、緊急重版が決定! 5月末には3刷分が出来となる。ここでは、舞城作品はなぜ“沼る”のか? その魅力について紹介する。

舞城王太郎『短篇七芒星』

「こんなのはじめて!」ザワザワくる書き出し

ろくでもない人間がいる。お前である。くだらないことに執着して他人に迷惑をかける人間がいる。これもお前である。 何を触っても誰と関わっても、腐敗と不幸をもたらす人間がいる。まさしくお前である。 (舞城王太郎『短篇七芒星』「代替」より)

こんな不穏な文章で始まる小説が、世の中にはある。これは、舞城王太郎の最新刊『短篇七芒星』に収録された「代替」の書き出しだ。メフィスト賞受賞を機にデビューし、『好き好き大好き超愛してる。』が芥川賞候補作となった際には、選考委員を騒然とさせたことを覚えている方もいるかもしれない。近年、荒木飛呂彦との共作『JORGE JOESTAR』や大暮維人の漫画『バイオーグ・トリニティ』の原作、『龍の歯医者』や『ID:INVADED』など、アニメ原作や脚本にも活躍の場を広げている舞城は、1行先が予想できないユニークな文章が大きな魅力の一つだ。

昨年6月に『短篇七芒星』が発売となると、コアなファンたちの間ですぐさま話題となったが、その3カ月後、冒頭の文章がTwitterに投稿されると瞬く間に20万「いいね」を獲得、広く拡散された。

「続きが読みたい!」「出だしのパンチが効いている」「自分のことかと焦った」

と、舞城を知らなかったユーザーからもリプライが多々寄せられたのだ。

ただ、さらに舞城作品の凄さが窺えるのは、つい1カ月前にも同じ書き出しが別の投稿者によってTwitterにUPされ、再び24万超えの「いいね」を獲得したこと。

「笑える」「否定から入るのが効いている」「読みたいけれど作者名が読めない」

※念のため注:「まいじょうおうたろう」です。

と再びリプライが続々と寄せられ、この1週間もまだまだ拡散が続いている。

2度バズって緊急重版決定!

SNSでの話題を受けて書籍も完売状態となり、2刷重版が決定。4月26日から記事冒頭にある新しい帯デザインで再度各書店に送られた。さらにその後も勢いは止まらず、5月末には3刷分が出来となる。

ここで、続きが気になるという要望に応えて、もう少し先まで小説を読んでみよう。

 マジでびびるほどだ。おいおい、神様はどうしてお前みたいなクソをこの世に配置したのだろう?どのような側面においてもプラスとかポジティブとか前とか上とか善とか良とかとは反対の性質しか持たないお前が、どのような因果でここにいて、ひたすら周囲をダメにしているんだろう?

 お前はすでに赤ん坊の頃から親に好かれてなかった。俺は生まれたときからお前を見ているから、本当の最初のうちはかわいそうだと思っていたんだ。たまたま発生したお前という魂が、まだ母親の腹の中にいるうちから面倒がられ、疎まれ、憎悪を向けられてるなんて理不尽なものだなと思って同情もしていた。劣悪な環境の中で生まれるお前がなんとかしてまっすぐに育ち、どうにかしてまともな場所へ出てそれまでの汚いしがらみを捨ててくれないものかなと願ってもいた。

 ところが母親の子宮からブリンと出てきたお前は愚かな母親と短絡的な父親よりも単純に悪質だった。バカもアホも結果的に人に迷惑をかけるという意味では罪かもしれないが、お前ははっきりと故意に人を傷つけ、追い詰め、周囲で起こる泣き声や怒鳴り声や呻き声に感じる快楽を積極的に求めていた。そしてそれに気付いていないフリをしているのがまた酷かった。

 あのなあ、俺は、この世でこの俺だけは、お前のことを知っているし、わかるのだ。理解できるのだ。

 他の人間は赤ん坊の泣くタイミングなんて誰にもコントロールできない、ましてや赤ん坊本人には到底無理だという前提でいるけれども、俺にははっきりとわかる。お前は母親の一番辛いときに泣き喚き、出ない乳を欲しがり、本心ではミルクでも構わないのにミルクを嫌がって見せたのだ。母親が苛立つ声が好きだったし、母親に殴られても泣きながら内心ほくそ笑んでいたのだ。

 ゾッとするぜ。(舞城王太郎『短篇七芒星』「代替」より)

ここまで読んでも、物語がどのように展開するのか正直、さっぱり想定できないかもしれないが、それが舞城作品の巧みなところ。

ごくざっくりとあらすじを説明すれば、赤ん坊の頃から暴力的だった「お前」が周囲を不幸にしながら成長し、暴力の応酬で大怪我を負って入院。「ごめんなさい」が「ほれんささみ」と聞こえる感じでしか喋れないほど不自由な状態で内省し、越し方に思いを馳せる。といったところだろうか。

ただ、これでは内容の100分の1も表していないので、ぜひぜひ実際に読んでみてほしい。恐怖や嫌悪感の先に、ユーモアと不思議な温かい感動が押し寄せてくるはずだタイトルの通り、「七」つの短篇「奏雨(そう)」「狙撃」「落下」「雷撃」「代替」(今回話題となった短篇)「春嵐」「縁起」がギラギラと個性を発しているこの本を、あなたもぜひ手ににとってみて欲しい。そこには、まったく新しい刺激的な読書の世界がひらけているはずだ。

舞城 王太郎
1973年、福井県生まれ。2001年『煙か土か食い物』で第19回メフィスト賞を受賞しデビュー。03年『阿修羅ガール』で第16回三島由紀夫賞を受賞。『熊の場所』『九十九十九』『好き好き大好き超愛してる。』『ディスコ探偵水曜日』『短篇五芒星』『淵の王』『深夜百太郎』『私はあなたの瞳の林檎』など著書多数。12年には『ジョジョの奇妙な冒険』(荒木飛呂彦著)の25周年に際して『JORGE JOESTAR』を刊行。近年は小説に留まらず、『バイオーグ・トリニティ』(漫画・大暮維人)の原作、『月夜のグルメ』(漫画・奥西チエ)の原案、トム・ジョーンズ『コールド・スナップ』の翻訳ほか、短編実写映画『BREAK』の脚本、監督、長編アニメ『龍の歯医者』やアニメシリーズ『ID INVADED』の脚本、短編アニメ『ハンマーヘッド』の原案、脚本、監督などをつとめている。

舞城王太郎『短篇七芒星』

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