のり塩、コンソメパンチ、ピザポテト etc.――日本のポテトチップスのフレーバー(味)の種類の多さは世界でも随一なのだと語るのは、先日『ポテトチップスと日本人 人生に寄り添う国民食の誕生』(朝日新書)を上梓したライターの稲田豊史さん。なぜかくも多様になったのか、そしてそれぞれの味の誕生の背景で日本社会にはどんなことが起きていたのか、稲田さんがポテトチップスの「味のトレンド史」を解説する。

※以下、稲田さんによる寄稿。

 

日本は「ポテトチップス天国」

日本人のジャガイモ消費量は世界的にみて決して多くはない。しかし日本人はポテトチップスが大好きだ。2021年の統計によると、日本ではジャガイモ加工食品の7割以上がポテトチップスとして消費されている。また、筆者が話を聞いたあるポテトチップスメーカーの方によれば、日本のポテトチップス市場ならではの特性は「新商品の発売数が圧倒的に多い」ことだという。

そう、日本のポテトチップスはフレーバーの種類がものすごく多い。塩、のり塩、コンソメを基本に、チーズ、バター、醤油、サワークリーム、ブラックペッパーに柚子胡椒、ごま油にガーリック、海老やレモン、期間限定販売のさまざまなご当地グルメ味など。ありとあらゆる食材がポテトチップスのフレーバーになっている。

無論、ポテトチップスの本場アメリカでもフレーバーの種類は豊富だ。ただし、基本となるフレーバーは6種類しかない。〔1〕塩、〔2〕バーベキュー、〔3〕サワークリーム&オニオン、〔4〕ソルト&ビネガー、〔5〕ホットチリやハラペーニョなどの辛い系、〔6〕チーズ――だ。メーカーやブランドが変わっても大半がこの6種の派生であり、日本ほどの多様性はない。

高級おつまみの時代(1950年〜)

そのアメリカでは6フレーバーの売上の半分以上を塩味が占めるが、国産ポテトチップスの元祖と言われる商品も、当然ながら塩味だった。ハワイ帰りの日本人・濱田音四郎が1950年に設立したアメリカンポテトチップ社の「フラ印アメリカンポテトチップ」である。

写真は現在発売中の「フラ印 アメリカンポテトチップス うすしお味」/ソシオ工房の公式HPより

当初、音四郎は「フラ印アメリカンポテトチップ」を駐留米軍のアメリカ人たち向けに販売した。彼らが引き揚げていくと、今度はホテルのビアガーデンなどに営業をかけた。塩味でしょっぱいポテトチップスはビールに合う、というわけだ。その後は高級スーパーや高級バーなどへ次々と販路を広げていった。

当時の日本では、ポテトチップスは「おやつ」ではなく「酒のつまみ」だった。それもそのはず。発売当初の価格は35gで36円。現在の物価に換算して800円前後だ。35gといえば、現在スーパーで売っているポテトチップス1袋のたった半分強。当時のポテトチップスは高級品だったのだ。