2023.05.03
村上春樹作品のなかで「多くの女子学生を惹きつけ」「複雑な母娘関係が描かれた」、意外なタイトルをご存じですか?
フェミニズム的主題
村上春樹さんの新刊『街とその不確かな壁』が発売され、SNSなどには続々と感想が投稿されています。
ところで村上さんの作品といえば、小説はもちろんのこと、エッセイ、ルポルタージュ、インタビュー、読者との問答など、きわめて幅広いジャンルを横断していることで知られています。小説だけをとってみても、その主題・テーマは、全体を見渡せないほどの広がりを持っているといえるでしょう。
それゆえなかには、一般的な村上作品のイメージからはやや離れており、少し意外な印象を受けるテーマをもつ(とされる)作品もあります。
たとえば、長きにわたって村上作品を追ってきたことで知られる批評家の加藤典洋さんが、『村上春樹の世界』という著作のなかで、フェミニズム的な主題や「母と娘の関係」が描かれているとして紹介する作品があります。
それは、短編集『回転木馬のデッドヒート』におさめられている「レーダーホーゼン」という作品です(以下、同作の内容にやや踏み込んでふれています)。
紙幅の関係で、ごくざっくりとしかあらすじを紹介できないのですが、それは以下のようなものです。
ある日、主人公である30代の男性小説家のもとに、妻の友人である女性がやってきて、離婚してしまった自身の母親の話をとうとつにはじめます。その母親は、夫、娘(=主人公の妻の友人)と比較的仲よく暮らしていましたが、娘が大学二年生、本人が55歳のとき、一人でドイツに旅行におとずれ、現地の半ズボンである「レーダーボーゼン」を目にしたことをきっかけに、とつぜん離婚を決意するのです。