あの「コロコロコミック」がつくった「Switchのゲーム」が超話題になっていた…!
小学館コロコロコミック編集部が、『甲虫王者ムシキング』を大ヒットさせたゲーム制作者・植村比呂志氏とタッグを組んで開発したNintendo Switch用ソフト『カブトクワガタ』が2023年3月15日に発売され、TwitterやYouTubeを中心に大きなバズを巻き起こした。
同作はカブトムシ、クワガタムシが好きな主人公の少年が巨大なムシが暴れる世界に転移してしまい、自らのカブト・クワガタと戦わせながら元の世界に戻る方法とムシが暴れるようになった謎を解くカギを探すというストーリーだ。3DCGでリアルにモデリングされたカブトやクワガタが戦い、交配させて強い個体を生み出すのが醍醐味だが、すべてのテキストを棒読みの合成音声で読み上げる仕様やリアルな昆虫の交尾、ぶっとんだキャラ付けなどがゲーム実況者を中心に注目され、発売直後にニンテンドーオンラインではダウンロード販売ランキングの3位、総合ランキングでも4位にランクイン。開発サイドとしては大人からのここまでの反響は、ありがたくも予想外な出来事だったという。
では実際のところ『カブトクワガタ』の狙いは何なのか。なぜいま甲虫類のゲームだったのか。「コロコロコミック」前編集長でプロデューサーの和田誠氏、『カブトクワガタ』ディレクターで開発責任者を務める植村比呂志氏に訊いた。(前後編の前編)

「コロコロ」読者に向けた自社主導のインディゲームを作れないか?
「コロコロ」は1980年代から誌面上でビデオゲームを記事化、マンガ化し、時にはイベントも行ってきた。
はじめはメーカーが作った子どもたちに人気のゲームを雑誌で紹介するかたちだけだったが、メーカーと編集部の関係性が強くなってくると、ゲーム企画の初期段階から『コロコロ』で描いているマンガ家さんに参画いただいてキャラクターデザインをするなど、権利を共有したり、一部ロイヤリティをもらうかたちでゲームづくりに参画してきた。しかし完全に自社主導で自前でゲームを作る流れができてきたのはここ数年のことだ。
「近年は少人数で良質なゲームを作るインディゲームが定着してきており、任天堂さんなどのプラットフォーマーはそういう制作者を応援していく姿勢を示しています。僕らは出版社ですが、ゲーム業界とは密にやってきましたから、自分たち発でもゲームを作り、そこからブームを起こせるのではないか、と。その可能性を模索しているなかで、たまたま植村さんがフリーランスとなるといったタイミングがあり、双方のやりたいことが一致して『カブトクワガタ』のプロジェクトが始動しました」(小学館・和田誠プロデューサー)
「私はもともとセガに長年勤めていた人間ですが、10年くらい前と比べてもゲーム開発にかかるお金が高額になってきました。ところがスマホ向けでも家庭向けでも、ビジネスモデルは変わらないわけです。スマホならガチャで課金、家庭用なら定価6000円から8000円くらいで販売する、と。そうすると仮に開発費5000万円のゲームといわゆるAAAと呼ばれる何百億円もかけて作るゲームが同じ値段で遊べるのであれば、後者を選ぶほうがユーザーからすれば無難です。ゲーム会社としても、お客さんに選ばれるためには大予算をかけて過去の有名作品のナンバリングタイトルを作るとか、全世界で1000万本を目指すようなどの国の人でも興味を持ちそうなテーマの作品を作ろうという流れになります。
逆に言うと、大規模ではないチャレンジングな企画や特定層にユーザーを絞った、昔のような家庭用のゲームづくりは、僕にはもうできないのかなと思っていました。ところがそこに和田さんから『コロコロの読者に向けたゲームを作りたい』とお話をいただき、こんな奇跡のような機会はないと思ってお引き受けしました」(植村比呂志ディレクター)