厚意という名の押しつけに辟易する慎太郎さんだったが、なかなか断ることができない。
永遠に繰り返されるやりとりを想像してゾッと
やがて「くれるって言うんだから、もらっておけばいい」と開き直り、食べずに捨ててしまうことがあっても罪悪感を抱かないようになった頃、さらに厄介な問題に直面する。
「『お礼』と『お返し』です。『先日はご馳走さまでした』とか『この前は有難うございました』とか、何かしてもらったら、お礼と一緒に何かお返しをするのが当たり前になってるんですよ。最初はそれに気付かなかったんで放置してたんですけど、『この前あげたみかん甘かったでしょ?』とか『昨日持って行った煮物は食べたかい?』とか、なんか思い出させるような確認の仕方をするんで、なんか意味深だなと思ってたら、そういうことでした。
大根をもらったから人参をあげる…みたいな物々交換ができればいいんですけど、ちゃんとした農家さんがくれた立派な野菜のお返しに、私が家庭菜園で作ったショボい野菜をあげるわけに行かないじゃないですか?
料理もそうですよ。ベテランの主婦が作ったもののお返しに、調理の仕方も怪しい私の手料理をあげるわけに行かない。『向こうが勝手にしたことなんだから』と思っても、それで済まないのが地方の怖いところ。もう仕方なくスーパーで酒とかジュースを買って『先日のお礼です』って届けました。
『気を使わせちゃって悪いねえ』なんて恐縮されるとちょっとホッとするんですけど、『また何かあったら持って行くからね』って言われると『これが永遠に続くのか』とゾッとしましたね」