待望の「鮮卑拓跋」本、登場! 中国史のカギを握る「忘れられた部族」とは?
騎馬遊牧民が中華文明を創った⁉「三国志」に「秦の始皇帝」、チンギス・カンにラストエンペラー、さらに毛沢東の長征と文革。中国の歴史には多くのドラマがあり、英雄がいる。そんななかで、あえて「マイナーな部族」に光をあてた中国歴史本が注目されている。『中華を生んだ遊牧民 鮮卑拓跋の歴史』(松下憲一著、講談社選書メチエ)だ。「〈鮮卑拓跋〉などという本が一般書レーベルで出るとは!」「これ、待ってたヤツだ」など、ネット上では刊行前から期待の声があがっている。しかし、「センピタクバツ」って、いったい何なのか――。
中国史の分水嶺、「大分裂時代」の主役
強大な漢王朝が滅んで魏・呉・蜀に分裂し、その三国の覇者・曹操の魏が晋に継承され、そして……、この辺から「なんだかわからなくなる」のが中国の歴史だ。この4~6世紀は、さまざまな「民族」や「王朝」が入り乱れ、中国史のまさに「難所」と言っていいだろう。「魏晋南北朝時代」とか「五胡十六国時代」といわれるこの時代に、主役を演じたのが「拓跋部」だ。
「拓跋部とは、中国を最初に支配した遊牧民です。中国の歴史は、漢族と北方遊牧民の対立と融合の歴史だといえますが、そのなかで、遊牧集団・鮮卑に属する部族の一つ、拓跋部は王朝・北魏を建てて北部中国を支配し、その後の〈中華〉の形成にも大きな影響を及ぼしたのです」と、『中華を生んだ遊牧民 鮮卑拓跋の歴史』の著者で、愛知学院大学教授の松下憲一氏はいう。
〈中国の歴史は、[夏・殷・周]→春秋・戦国→[秦・漢]→ 魏晋南北朝→[隋・唐]→ 五代十国・宋と遼・金→[元・明・清]というように統一王朝時代([ ]で示した王朝)と分裂時代との繰り返しで展開してきた。それともう一つ、中国の歴史は、漢族と北方遊牧民との対立と融合の歴史でもある。中国王朝のなかには、夷狄(いてき)とか胡族(こぞく)と呼ばれる北方遊牧民が支配者となったいわゆる異民族王朝(征服王朝とか遊牧王朝とも呼ばれる)がある。〉(『中華を生んだ遊牧民 鮮卑拓跋の歴史』p.10)
この「夷狄」と呼ばれた騎馬遊牧民の一団、拓跋部が、魏晋南北朝の分裂を制して新たな時代を拓いた、というのだ。