2023.05.15

皇太子の母は死なねばならない⁉ 中国・北魏に実在した驚きの皇位継承ルール

知られざる〈鮮卑拓跋〉の歴史

遊牧集団・鮮卑の一部族、拓跋部が4世紀末に創始し、その後130年余りにわたって中国の北半分を支配した王朝が、北魏だ。五胡十六国の分裂を平定し、その後の「新たな中華」を拓いたこの王朝の皇位継承には、現代では考えられない残酷なルールが存在していた。初めての「鮮卑拓跋部の通史」として好評の『中華を生んだ遊牧民 鮮卑拓跋の歴史』(松下憲一著、講談社選書メチエ)から見ていこう。

生母が死を賜る「子貴母死」

世界史上のあらゆる権力者や王朝にとって、「後継者選び」は最も悩ましい問題だ。強く、優秀な後継者をどうやって決めるか。しかも、前任者や先祖への敬意を忘れず、血筋も良く、誰からも文句が出ない者でなければならない――。

そこで、北魏で採用されたのは、「子貴母死(しきぼし)」と呼ばれる方式である。『中華を生んだ遊牧民』の著者で、愛知学院大学教授の松下憲一氏が解説する。

「子貴母死は、後宮の女性が子を産み、その子が後継者に選ばれると、生母は死を賜うというルールでした。ただし、後継者が即、皇太子になるわけではなく、その後さらに選抜を経て皇太子に立てられるのです。特に北魏の前半に行われており、中国の研究者の間でも、比較的最近になってクローズアップされてきた制度です」(松下氏)

なんとも残酷な話であるが、どうしてこのようなルールができたのか。その理由を、北魏初代皇帝の道武帝は、息子の明元帝に次のように説明している。

――むかし前漢の武帝が子を皇太子とするときにその母親を殺し、母親がのちに国政に参与し、外戚が政治を乱さないようにした。お前は跡継ぎになるのだから、わしも前漢の武帝と同じようにして、長く続くようにしておく――。

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